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年齢も国籍も関係ない、欲しいのは一言だけ 前編(3)

1年後。
勉の父は日本へと向かう飛行機に乗る為、昼の内に飛行場へと向かう。
が、その日の午前、奴が来た。

 「明様ー」

 「また、あいつか…」
 「明。顔見てビシッと言ってやれよ」
 「嫌だなあ…」
 「俺も嫌なんだよ」

溜息吐きながら、俺は明を表に連れ出す。
 「ほら、言ってやれよ」
 「仕方ないなあ…」
目を潤ませて、女は言ってくる。
 「明様、しばしの別れを告げに参りました」
 「え…、別れ?」
 「はい、私は3年間でしたので。今日の夜の便で日本に戻ります」
 「そう」
 「でも、直ぐに来ますからね」
 「何処へ?」
 「こちらへ、今度は明様を迎えに」
 「いや、来なくて」
 「来ます!絶対に」
 「保高女史、俺は」
 「絵美です。絵美と、仰って下さい」

明もそうだが、俺も溜息を吐いていた。
 「いい加減にしろよ。二度と来るなっ」
 「あんたは黙れっ」
 「何を、この」
だが、その女は明しか見ようとしない。
 「明様、本当は、このまま一緒に日本に戻って来て下さい」
 「断ります」
 「明様」
俺はイラついていたので遮ってやる。
 「本当に煩い奴だな。嫌だって、言ってるんだろ」
 「あんたは黙れって言ってるでしょっ」


俺達を無視して、お父ちゃんは帰り支度が終わったみたいだ。
 「それじゃ、世話になったね」
思わず言っていた。
 「この女も一緒に連れて帰ってっ」
 
お父ちゃんは苦笑している。
 「保高女史、御一緒にいかがですか?」
 「井坂の小父様も、今日帰国されるのですか?」
 「ええ、そうです」
 「私は夜の便ですので」
 「そうですか。私は一旦、会社に行きますので」
 「それでは、お元気で」
 「ありがとうございます。保高女史も、御無事で帰国して下さいね」
 「ありがとうございます」


ちょっと、何を完結させてるんだよ。
 「連れて帰って、と言ってるのにっ」

その女は言ってくる。
 「煩いよ、あんたは。誰に向かって言ってるの。あの人は私の父と同じ会社の常務なのよ。
本来ならば、あんたみたいなのとは声も掛けられない立場の人間なんだからね」
 「クソ煩い女だな」

お父ちゃんは、どう思ったのか笑いながら言ってくる。
 「二人とも仲良さそうだな」
その女と俺はハモっていた。 
 「誰と誰が?」

すると、お父ちゃんは、こう返してきた。
 「まるで、私が妻と初めて会った時と同じだ」

 「はあ?何言って…」と、絶句したのは言うまでもない。
だが、その女は違っていた。
 「あら、それでは井坂の小父様は、私が好みのタイプだと仰りたいのですか?」
 「気が強い人は好みだよ」
 「まあ…」
その女は顔を赤らめた。
 (げ、嘘だろ。そりゃ、お母ちゃんは気の強いところはあるが、煩くないぞ)


その言葉の意味を、どう取ったのか。その女は、とんでもない事を言ってきた。
 「社長夫人と常務夫人…。どちらも良い響きですわね」

え、何だそれ。
 「井坂絵美…」

その呟いた言葉に、俺は反応していた。
 「冗談じゃないっ!俺は反対だっ」

すると明は言ってくる。
 「とても良い響きですね」
 
は?
すると、その女は嬉しそうな顔になってきた。
 「明様も、そう思われます?井坂絵美…、羽鳥絵美…」

にっこり顔になって、お父ちゃんに詰め寄る。
 「うふっ、数年後の明様も良いけれど、今が旬な人の方が良いわよね。
ねえ、伯父様。私と結婚し」
それ以上聞きたくなくて、遮ってやる。
 「俺は反対だっ!貴様なんて大いに拒否ってやる。却下だ、却下っ」
 「煩いわね。あんたなんて、お呼びでは無いのよ。関係ないんだから」
 「大いに関係あるねっ」

だが、その女はお父ちゃんの腕を取り、腕を絡ませ組んでいる。
 「俺は反対だからなっ。おい、そいつは子供が居るんだよっ」
 「それぐらい分かってるわよ。煩いわね…」


俺は、昨日の事を思い出していた。
お父ちゃんと一緒に二人だけで話していた事を。
元々はフランスで生まれ、3年後には日本に移住したフランス人だという事。
そして、お父ちゃんの夢。
死ぬ時はフランス人として死にたい、という言葉。
家に居場所がなく、今は仕事してる方が気が安らぐという事。
そして、お母ちゃんが若者と不倫してる事。

その時、俺は何も言えなかった。
だから、今、この時に言ってやる。
 「そんな女と結婚して老後の人生を無駄にするなよっ」
お父ちゃんは、にこにこと返してくる。
 「結婚するって決まった事では無いから」
 「いいえ、私達は結婚するのよ。だから、今の奥様とは離婚して下さいね」
 「さぁて、どうしようかな」
 「あ、そうだ。お子さんとも一度はお目に掛かりたいです」
 「会ってるでしょ?」
 「いいえ、会ってませんよ」


このやり取りを聞いているとムカついてくる。
放っておけばいいのだろうが、それは出来ずに口を挟んでいた。
 「いい加減にしろよ、このアマ…」
 「あんたには関係ないって」
俺は、お父ちゃんに向かって言ってやる。
 「日本に帰りたいのか、フランスに帰りたいのかを決めるのは、本人だ。
こんな尻軽な女なんて一言で切ってやれば良いんだ」
 
お父ちゃんは黙っているので、畳み掛けてやる。
 「そりゃ、昨日は驚きの方が強くて何も言えなかったけど…。
こっちに戻ってきたいのなら、戻ってくれば良いんだ。
俺だって、そういう思いが強かったから戻って来たんだ。
俺は、戻って来て良かったと思ってるよ。
クリスやフライトも歓迎してくれたし、明も居る。
俺は1人じゃないんだ。ここに居場所はあるんだ、と確信してるんだ。
ね、お父ちゃん。
お母ちゃんと話し合ってから決めても遅くはないよ。」

お父ちゃんは口を開いてきた。
 「そうだな…、まずは話し合いだな」

うん、と頷いてやる。
 「どこかの誰かさんは話し合いなんてすっとばして、自分勝手に飛んで行ったけど。
話し合いは必要だよな」
 「う…、そ、それは……」

はい、たしかに話し合いなんてしませんでした。
お父ちゃんは微笑み言ってきた。
 「まあ、取り敢えず日本に戻る。ビザも取ったからな」
 「お父ちゃん…」
 「元気でやれよ」
 「うん、お父ちゃんも」

ありがとう。
そう言って、お父ちゃんは煩い女を置いて出て行った。
いや、連れて行って欲しいんだが。
まあ、その女は明が対応しているので大丈夫そうだ。

取り敢えず、開店準備をしよう。




その後、お父ちゃんから連絡があったのは2年後だった。
離婚が成立してから一人暮らしをしているので、フランスに戻るのは来年になる、との事だった。
その時、お父ちゃんは、こんな事を知らせてくれた。
 「知り合いの子供が、この夏、そっちへ行く。フラットの用意をよろしく」と。

そして、近所にあるGPからも連絡があった。
 「同じ大学で医学部出身の息子さんなんだ。その子が、この8月に来るのでよろしく」と。


その年の8月下旬。
お父ちゃんに似た黒髪黒目の男の子が入居してきた。
一瞬、お父ちゃんの小型版かと思ってしまったほどだ。
それもそのはず、その子は日本人の父親を持つオーストラリア人だった。












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前編は終わりです。
次週からは、別の物語になります。
『年齢も国籍も関係ない、欲しいのは一言だけ』の後編は1ヶ月後です。
それまで、お待ちください(*- -)(*_ _)ペコリ

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