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俺の気持ちはブレない (5)

アサミコーチの声がする。
 「今日は、ここまでにします。16時からはミーティングですから、それに間に合うように明日からは自分で時間をコントロールして下さい」
 「はい、分かりました」
 「それでは着替え終わったらミーティングします」
 「はい、ありがとうございました」

シャワーを浴び、風呂に入って身体を温めてはボイラーの下で髪や身体を乾かす。
スタッフルームに入る前は、出る時同様にプールに向かって一礼する。
 「お疲れ様でしたー」
と、思わず言ってしまった。
アサミコーチの声が応じてくれる。
 「はい、お疲れ様でしたー」

16時のミーティングも終わり、今日からのシフト表を貰う。
19時からは監視役で20時からはサブに入ってる。
18時になると夕食時間になるので、俺は弁当を作って持って来てるのでそれを食べる。
買いに行く人もいれば、食べに行く人もいるみたいだ。
ちなみに、アサミコーチは買いに行く派で、所長は買いに行かせる派だ。

食べ終わると、バイトの人が側に寄ってくる。
 「桑田さんですか?」
 「はい、桑田です」
 「バイトの佐賀美です。20時からのを一緒に、とアサミコーチから言われました。
よろしくお願いします」
 「佐賀美コーチですね。キャップには名前が書かれてるので、そちらで呼んでください。
マサユキ、と。こちらこそよろしくお願いします」

そのサガミコーチは俺をまじまじと見つめてくれる。
 「え、嘘っ…。政行って、桑田政行?あの水泳バカの桑田政行っ?」
段々と大きな声になってくる彼に、静かにね、とシーシーと自分の口に指を当てて言ってると、彼は深呼吸して言ってきた。
 「俺、貴方に憧れて水泳を始めたんです。第三の桑田政行さんですよね?俺も第三出身で、佐賀美耕司(さがみ こうじ)。覚えてますか?」
 「さがみこうじ?」
 「はい、同じ寮に入ってました」
 「あ、双子の兄の方?」
 「そうです。覚えててくれて嬉しいですっ。先輩はバイトではなくスタッフなんですね」
 「うん。この3月に大学卒業して、ここに就職したんだ。でも良かったよ、知ってる人が居て。今日はサブだけど、いつかはメインでやると思うんだ。その時はよろしくね」
 「はい、こちらこそお願いします。俺は19時と20時の二本なんですよ」
 「金曜と他には?」
 「他は火曜と木曜です。火木金の週三日です」
 「最初はどうだった?」
 「うーん…、最初はテンパってて緊張しまくりでしたね。子供と違って言葉には本当に気を使いますからね」
 「今はどんな?」
 「今は大丈夫ですよ。これは慣れですからね。自分より年上がほとんどですからね」
すると、サガミコーチはにこやかな表情で、とんでもない事を言ってきた。
 「あ、こうしましょう。今日は、喋りの方は任せます。俺は指導の方に専念しますからね」
 「ええっ…、いきなりハードル高いよお…」
 「さっきも言った様に慣れなんです。フォローはしますが、喋って下さいね。あ、それでは中入りますので、後ほど」

そう言ってサガミコーチはスタッフルームから出た。


はあ……。
あ、やばい。監視役を忘れるとこだった。
海パンの上に短パンを履き、Tシャツを着て警笛を首に掛け、プールに向かう。
中に入る時は一礼して監視台に乗って45分間を見守る。
サガミコーチの指導を見ながら、フリーで泳がれてる人の方にも目をやる。

もう一本も監視役の方が良いな。
そう思っていたら、サガミコーチが寄って来ては20時からの打ち合わせをする。
全員来られて19人。
うへぇ、慣れたら19人を一人でやるのか…。
今日は二人でやるので、気が楽ではなく、その反対だそうだ。
慣れると、そうなるらしい。

俺の心臓はバクバクしてるよ。



サガミコーチの言葉で20時からの指導コースは始まる。
 「今日はサブで一人います。皆さん、宜しくお願いします」
そう言うと、目配りされる。
 「マサユキコーチです。宜しくお願いします」
 「それでは出欠取りはマサユキコーチにお願いします。よろしく」
出欠ボードを手渡され、名前を読み上げて一人一人によろしく、と顔を見ながら付け足して言っていく。子供相手でやっていた時も顔を見ながら出欠を取っていた名残だ。
 「はい、今日は16名の参加ですね。宜しくお願いします」
皆が応じてくれる。
 「宜しくお願いします」


 「うん、マサユキコーチ、初めてにしてはナイスな言葉です。皆さんも合いの手をありがとうございます。それでは25mを往復1本、ゆっくりと走ります。一列に並んで頂いて…、スタートッ」

アップに1本の走りとビート板有りの顔付けキック1本、ビート板無しでの顔付けキックを1本。
それが終わると、自由形クロールの練習だ。

補助をしながらサガミコーチは言ってくれる。
火曜日と金曜日の20時のコースは同じメンバーだから、クロールを重点に置いてるんだ。
子供とは違い、成人の場合は悪い箇所を直すのではなく良い箇所を伸ばしていく様にもっていくのがコツなんだ。
子供だと練習すれば直るけど成人の方は直らないからね。

 「目につくところがあったら?」
 「そういう時は言葉を選んでアドバイスをする。成人の泳ぎは固定されてるからね。
それに強化練習ではないから、そこまで必要ではない。
1ストローク1ブレスの人もいれば、2ストローク1ブレスの人もいるからね。そんな人に3ストローク1ブレスを教えようとはしない事。」


なんとか無事に45分間が終わり、サガミコーチと一緒に風呂に入り頭や身体を洗って乾かす。
ボイラーの下で乾かしてる間、俺は聞いていた。
 「質問良いですか?」
 「どうぞ」
 「バタフライのキックをしてる人が居て、その人に自由形のキックを教えるのに苦労しています。
どういう方法がありますか?今は左右の足を交互に水中に押し入れてるのだけど……」
 「なにそれ…。自由形のキックが出来てるからバタフライ泳げるのでしょ?」
 「普通はそうですよね?でも、バタフライは見事なほどに完璧なのだけど、自由形を泳がせると、バタフライ並みのキックなんです。左右の足や腰が同時に動いてるの」
 「誰、その人?」

マサユキは昼間の研修の事を言うと、サガミコーチは納得したみたいだ。
 「ああ、所長ね……。俺は、研修はアサミコーチだったから所長の泳ぎは知らないんだ」
少し考えてサガミコーチはアドバイスしてくれた。
 「それなら上から見て見たらどうかな?」
 「上から?」
 「見る角度によって見え方は違ってくるからね」
 「あ、プールサイドからね。うん、そうしてみる。アドバイスありがとうございます」


髪も乾いてきたので、二人揃ってスタッフルームに向かう。
一礼をしてスタッフルームに入るり声を掛ける。
 「お疲れ様です」
スタッフルームに居た人が声を返してくれる。
 「お疲れー」

アサミコーチが声を掛けてくれる。
 「マサユキコーチ、着替えたらジムの方を案内します」
 「はい、すぐ着替えてきます」

ポロシャツと短パンに着替えスタッフルームに戻ると、マサユキコーチに紙袋を手渡される。
 「これは…?」
 「ジム用品のカタログと取扱説明書です。水泳の知識はあっても、ジムの知識は無いでしょ?
私だって無かったんですから。それは差し上げます」
荷物は机の上に置き、アサミコーチに「こちらです」と言われ後を付いていく。












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そして、初仕事。
知り合いがバイトとして働いてるだけで心強いよね^-^

私の時は、バイトではなくスタッフとして知り合いが働いてました。
それでも、嬉しかったです。


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