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クルーザーで太平洋巡り! (31) そして……

 いくら読み返しても俺のことしか書かれてない。
 だから確認したくなった。
  「これだけ?」
  「そうだ」
  「悟さんのことは」
  「一言も書かれてない」
  「悟さんのこと、なにも書かれてないよ。なんで」
  「私は、これだけで十分伝わっているからいいんだ」
  「本当にいいの?」
  
 なにかを決したのか言ってくる。
  「優介。私たち10人は次元の違う種類のテレパシーがあるんだ。ボスを含め、右腕スズメと、左腕である私の3人は他の7人とは違う特別なものがある。これだけで通じる」
  「でも、寂しくない?」
  「全然」
  「どうして……。もう、会えないんだよ」
  「違うよ。よく見てご覧。一言も、会わないなんて書かれてないだろ」
  「そうだけど……」
 
  「ボスの書きたいことは優介のことだけなんだ。これだけ言えば分かるだろう」
  「友兄は、俺のことを……」
 
 そこで気が付いた。
  「今までは、俺に会うために来てたってこと?」
  「そうだ。でも、これからは違う。優介会いたさに来ることはない」
  「でも、ここに来ることはある」
  「なにが言いたい?」
  「別に」
 
 悟さんの口調が変わる。
  「優介。これからはファザコンを卒業しろよ」
  「はあ? ファザコンってなんだよ」
  「いや、ブラコンか……」
  「だから、なにが」
  「お前は、斉藤財閥の人間だ。これからは、たーっぷり帝王学を仕込んでやる」
  「え、それって、まさか……」
  「まあ、ここには帝王学を学んだのが私を入れて3人だからな」
  「3人って」
  「昌平と隆星、それに私との3人だ」
  「俺を、あの家に戻すつもりなの?」
  「違う」
 
 即答で返ってきた言葉に安心したら、こう言ってくる。
  「岡崎君は秘書をしていたから仕込む必要ないからな」
  「なぜ、そこに徹の名前を」
  
 悟さんはニヤついてくる。
 あ、これはなにか考えてるな。
 でも、ここを出て行けと言われるよりはマシだ。
 
 
 
 俺は、あのときのプレゼントと手紙も持っている。
 試験で『御』のバースディパーティーに不参加の意を示したのだけど、実際は、着ていく服がなくて半泣きになっていたんだ。
 そんなとき、離れに来てくれた。
 学ランを縫い直してくれたし、簡単に作れる料理レシピを書いてくれたっけ。
 その翌年のバースディカードも手書きだった。
 あのときのスーツ2セットには驚いたが嬉しかったものだ。
 
  「優介、どこに」
 
 悟さんの言葉を無視して自分の部屋に入り、クローゼットを開ける。
 スーツが2着。
 カッターシャツが4着とベルトとネクタイが2本ずつ。ネクタイピン、最後に靴を取り出し着てみる。
 悟さんの声音が低くなっている。
  「そのスーツはどうした?」

 その口調は怖いが、でもこれらは俺への贈り物だ。意を決して言ってやる。
  「あのね、このスーツって悟さんがアメリカに行ってたときに足長おじさんが贈ってくれたの」
  「ふざけた名前の奴だな」

 ハサミを持った悟さんが鏡越しに映る。
 冗談じゃないと思い、クスクスと笑いながら言ってやる。
  「足長おじさんの正体は、友兄だよ」
 
 悟さんは驚いている。
  「あ、まだ余裕に着れる」
 
 悟さんは、こう返してきた。
  「なるほど。優介の体型は、中学生の頃と変わらず成長してないということか」
  「腹も出てないし、羨ましいんでしょ」
 
 そう返すと口をビローンと伸ばしてくる。
  「どの口が、何を言った?」
  「ひ、ひやぁひ」
  「え、何を言ってるって?」
  「ひ、ひやぁーひ」
  
  
 
 友兄。
 うん、俺は大丈夫だよ。
 
 無理して会いに来て欲しくないから。
 来たいときに来てね。
 待ってるね。
 
 
 
 



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これで、優介も一歩、成長していきます。
足長おじさんとのやり取りは、優介が主役の『可愛いと言わないで』を、ご参照に。

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