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貴方がいる。それが強くなれる秘訣だ! (25)は、最終話

 なにか言いたげな表情をしていたが意を決したのだろう。
 トモヤは口を開く。
  「マサ、聞いていいか?」
  「なに?」
  「ボスは、なにがあったのかカミングしたのか?」
  「なにを?」
 
 トモヤは言葉を選ぶ
  「どうして、徘徊するのか。その理由を」
  「理由は知らない。だけど左目を失明しているので、それに関わることだろうなとは思っている」
  「どうして失明したのかは」
  「知らない。スズメやサトルは知ってるのかも分からないな」
  「スズメか……。あいつは一番肝心なことはまるっきり喋らないからなあ。それにサトルは昔から苦手だ……」
 
 
 そう、ボスは私にしか言ってないのか。
 シンガポールでの銃撃戦。
 あんなむごいのは初めてだった。
 私が勤務していた第二スペシャル病院は、まだマシな方だった。
 だけど、第一と第四の二病院は目を覆いたくなるほどの惨状だった。
 
 ドイツでボスと再開したとき、私は腹が立ってカミングしたほどだった。
 それが、ボスは一言だった。
  「だから、なに?」
  「だからって……」
  「それで苦しんでいる人たちが大勢居るんだ」
  「それぐらい知ってる」
  「マシな病院にいたんだろ。凄い惨状の中身を知ってるか。大人だけでない、子どもも老若男女関係なく苦しんで死んでいく人もいれば、オペしてくれてもフォローがない人もいる」
  「だから?」
  「どうして心療内科をフリーでやっている?」
  「どうしてって……」
  「それほどまでに大勢の人たちが苦しんで困っているからだろっ」
 
 あの表情に、なにも言い返せないでいた。
 すると、隣に居た人が話してくれた。
  「こいつは、一番激しい第一のスペシャル病院で働いていたんだ」
 
 その言葉に思わずボスの顔を見ていた。
 本当なら自分でカミングすべきなのに、どうして他の人が話すのか。
  「貴方は、何様のつもりだ。ボスの福笑いか。ボス、自分でカミングしろよ。他人に言わせて自分はなにも」
  「君の症状は軽い。だけど、こいつにとっては、まだカミングできるような状態ではないんだ」
  「私はオペ中だったんだ。そんなときに一気に大勢のクランケがオペをしてもらいたくて来る。あの銃撃を受けて、銃弾をまともに受けて病院に来たが、私は対処できなかった。何人の人を目の前で死なせてしまったか……」
  「それでも、君はメスを持ってオペをすることができる」
  「オペドクターになろうという気はない」
  「こいつは、再びメスを持ってオペドクターになろうとしているんだ」
  「意味が分からないのだが……」
 
  「博人さん、もういい」
  「いいのか?」
  「巷で耳にしたドクター・トモヤは心療内科で丁寧に問診して触診もしてくれるらしいが、私はそうは思わない。こいつは自分の見栄張りだ。他を当たろう」
  「待てよっ。誰が見栄張りだって?」
  「違うか? 持てるくせに持とうとしないエセドクター」
  「誰がエセだって……。勝負だ。このシリコンボールをメスで開いて見せろ」
  「シリコン……」
  「メスの練習ではシリコンを使うだろ」
  「で、開いたらチョコレートが出てくるのか?」
  「チョコ……レート? なに、それ」
 
 博人はため息をつくと手を上げる。
  「分かったよ。開いたら大好きなチョコレートをたらふく食わせてやる」
  「約束だぞ」
 
 まずは先にトモヤがシリコンを難なく開いた。友明もチョコレート欲しさに開く。が、トモヤが口を挟んでくる。
  「持ち方がなってないぞ。そんなんで開くと思っているのか」と言いたかった。だけど、必死な表情でシリコンを切り開こうとしている友明に、なにも言えなかった。
 暫くするとギザギザになった切り目から中の空洞が見えてきた。3センチを切り開くのに何時間掛かっているのか。10秒あれば十分なはずだ。
  「開いたぞ」
  「そうだな……」
 
 思わず博人の口から呟きが出ていた。
  「よく片目で、こんなにできるな」
 
 その言葉をトモヤは拾っていた。
  「片目?」
 
 呟きを拾われたのに気が付いた博人は、ヤバッと手で口元を押さえる。
 それを知らない友明は脳天気に叫んでいる。
  「チョコレートー。やっと食べれる―。どこに食べに行こうかなー」
  「はいはい。どこにでも」
 
 そんなボスの背中に向かって言っていた。
  「考えとくよ。明後日、この時間に、ここでもう一度会おう」
  「どうして?」
  「そのときに返事する」
 
 
 そして、オーストラリアのパースにある多国籍スペシャル病院の付属クリニックに5年間の契約をしたんだ。
 
 声が聞こえてくる。いや、名前を呼ばれているのか。
  「……トモヤッ」
 
 ハッと気が付く。
  「意識を何処かに飛ばすのはいいが、苦しいことなどがあれば話してくれ。頼りないかもしれないが、力になりたいんだ」
 
 マサか。まだサトルよりはマシだなと思い、こう応える。
  「ありがとう。そのときがきたらお願いするよ」
  「分かった。それじゃ、これから5年間よろしく」
  「こちらこそよろしく」
 
 
 








 
  (終わり)
 
 
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