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好きになったのは年上で意地悪な人 (93) 

 お店”Ocean”がオープンして半年経った8月下旬。
 敦さんは「今年は知り合いと一緒にクルージング旅行を楽しむ」と言って、1週間という夏休みを取る。
 俺はどうしようと思ったが、連れて行くと言ってるから大丈夫だとのこと。
 
  「徹、行くぞ」
  「待ってください。もう少しだから」
  「っとに、意外に綺麗好きなんだな」
  「敦さんは意外にもずぼらなんだから。帰ってくると困るでしょ」
  「物を置いてなかったからな」
  「初めて入ったときは生活感ないなあと思った位だから、どうしているのだろうと不思議だったんですけどね」
 
 ブツブツと口を煩く動かしながらでも手足は動いている。
 
 
 1年間、あそこで常務をしていたが、こいつがベテランだと思ったことはない。
 どうしてベテラン秘書だと言うのか、それが分からなかった。
 
 水面下の底辺で努力しているからだ。
 それを知っている奴は頑張り屋という言葉で表すものだ。
 こいつはベテランではない。
 たんなる努力家だ。
 しかも自分で目標を掲げてないとしない。
 
 一緒に暮らして分かったことだ。
 
 それは本人も自覚しているので退社したいと口にしたのは5年前の1月だそうだ。
 それでも会社側は続けて欲しくて4年間しか引き留めることができなかった。
 本当にベテランなら、私のリストに載るはずだ。
 
 接触した2人の内の1人は自分で辞め、もう1人は残っている。
 誤算だったのは怜だ。
 あいつが重役秘書になるとは思いもしなかった。
 お陰でつきまとわれ、しかも入院させられた。
 でも、専務一人の他に、課長3人、ヒラ4人の計8人を退社に追い込み、ガンを取り除くことができたので安心したものだ。
 
 
 待っているのだが、なかなか降りてこない。
 あいつは、いつまで掛かってるんだ。
  「徹、いい加減にしろっ」
 
  「だって、挨拶は必要でしょ」
 その声は悟の家のほうから聞こえてきた。
  「買ったのか」
  「こっちはコンビニ店長からの餞別で、これは優介からもらった。そして、師匠からはこれです。渡して欲しいとの伝言です」
 
 はいと渡してくれる。
  「まったく、お前は秘書を辞めたくせに」
  「あは、長年の習慣」
 
 
 悟からの餞別だという袋に手を突っ込み取り出す。
 そこで止まってしまった。
 徹が聞いてくる。
  「それってなんですか?」
  「あの野郎ー……。そこで待ってろ」
 
 徹に紙袋を持たせたまま、悟の家に向かった。
 
 
 ガラス窓から見ていた優介は悟に声を掛けている。
  「悟さん、あの人、走ってきてますよ。あれって、怒ってますよね」
  「あれぐらいで怒るとはな」
 
 
 バンッ!
 カラカラカランッと怒りを表した鈴の音がする。
 
  「悟。あれはなんだっ」
  「私からの餞別だ。遠慮なく使ってくれ」
  「お前は-」
 
 
 徹は袋の中を覗いていた。
 どうして師匠は餞別に、こういうのをくれたのだろう。
 でも、これらってどうやって使うのだろう。
 
 徹は一つを手に取る。
 これは、どう見ても頭だよな。
 耳当てが付いてるし。
 次々と自分の身体に付けていく。
 
 
 
 
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サトルったら、なにを餞別に渡したのかなあ

次話は最終話です。

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