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好きになったのは年上で意地悪な人 (91) 

 開店初日。
 コンビニ店長と、師匠から花輪が届いた。
 しかも、退社した会社の社長からも。
 ああ、そういえば大学の同期で仲がよかったと言われてたな。
 
 そして、こともあろうに卒業した大学からも。
 そういえば、社長と同期なら俺と同じ大学だ。
 俺とは学部は違うが、それでも同じ東響大学でも「医学部卒業生仲間より」「経済学部卒業生仲間より」「教育学部卒業生仲間より」と送り主が違う。
 敦さんは、それを見て呆れた表情をしている。
  「これは、悟と新田だな。とに、あいつらは……」
 
 
 俺は夜しか知らないが、男性客で占められている。
 中二階で外を眺めながら飲んでいる人もいれば、ステージに上がって飲んでいる人もいる。
  1階では壁に飾られているヨット、クルーザー、海、各国の景色等のパネルを見入っている人もいる。ワインを飲みながら操縦席に座っている人もいれば、操縦している人もいる。
 
 
 そんな彼らを見ていると声が掛かる。
  「時間になるぞ」
  「本気なのね」
  「当たり前だ。見せつけてやれ」
 
 挙げ句の果てにはウインクまでしてくる。
  「準備してきます」
 
 
 やばいよ、やばい。
 ドキドキが止まらない。
 
 キッチン奥には倉庫と並び、控え室なるものを設けている。そこで着替える。
 紺に淡いクリーム掛かったスーツに着替えバイオリンと弓を持って、キッチン横に付けられている階段に向かう。
  「ラフなステージだからノーネクがいいな」
 
 そう言って、ネクタイを解きカッターシャツの第一ボタンを外してくる。
 それと同時に、敦さんの唇が触れてくる。
  「あ、敦さん……」
  「続きは、終わってからな」
  「はい」
 
 
 キッチン横の階段を上り帆が張られているスペースへ、ステージへと向かう。
 
 うう……。
 お客さんと、こんなに距離が近いステージだなんて初めてだ。
 
 
 アナウンスが聞こえてくる。
 これは、誰の声だろう。
  「30分間ですが、バイオリンのリサイタルが始まります。お楽しみください。ステージは帆の支柱がある場所です」
 
 そうアナウンスが入ると、客はこっちを見てくる。
 帆の近くに居た客は少し離れてくれる。
 うへぇ、こんなに近くにおられると緊張する。
 そして、下を覗き見る。
 
 うわぁ……。
 これは壮観だ。
 
 電気ではなく、ランプが灯された一室は、まるでプラネタリウムを見てるような気になってくる。
 帆が張られている支柱の前にウッドチェアを置いているので、それに座る。
 座らないと明かりが点かないからだ。
 
 
 30分後、アンコールの拍手がくる。
 アンコールかかると思ってなかったから考えてなかった。
 少しノリの軽いアップテンポの楽曲を2曲弾く。
 
 もう弾かないよという合図をスイッチを消すことで知らせる。
  「ありがとうございました。引き続き歓談ください」
 
 拍手の中、キッチンの前まで戻り一例して奥に引っ込んだ。
  「ああ、緊張した」
 
 
 バーテンダーの黒服に着替え終わり見ると、誰も帰ってなさそうだ。
  「ああ、疲れた」
  「お疲れ。どうだった?」
  「上から下を見ると、まるでプラネタリウムを見ているようだった。壮観だなと思いましたよ」
  「そういうつもりでテーブルをセットしたからな」
  「誰も席に座ってないし」
  「今夜の客は世界を飛び回っている連中だ。ここは食事をするところでないからな。椅子があっても座らない」
  「24時閉店でしたよね」
  「そうだ」
 
 優介の声が聞こえてくる。
  「シュークリームとチョコレートもありません」
  「夜の部は多めにお願いしたのに」
  「余ることを見積もって100個納品したのに。なのに21時にならないうちに完売」
  「それじゃ飲み物だけ」
  「昼はどうだった?」
  「昼は、シュークリーム6種類20個ずつで、16時前には完売しました」
  「なら、もう少し多めにしてもらうか」
 
  「二人とも夕食は?」
  「コンビニ店長から差し入れもらった」
  「稲荷と握り。美味かったあ」
 
  「まだなら、なにか作ってこようかなと思ったのだけど」
  「師匠は?」
  「終わってから来るって。明日は何個にしましょう?」
 
  「んー……、昼は30ずつにしてもらって、夜は100,いや120にしてもらおうかな。平日は少ないから、50あればいい」
  「味の指定ってありますか?」
  「夜はスタンダードなのでいい」
  「スタンダードって、生クリーム?」
  「生でもいいし、バターでもいいし、レモンでもいいな。昼はめんどうでなければ夜とは違う物をして欲しい」
  「どんな感じですか?」
  「見た目が華やかな物。シュークリームでも色々あるだろう」
  「見た目が華やかなシュークリーム……」
  「海外では、トロピカルなクリームが定番なんだけど、そこまでしなくていい。クリームは抹茶か梅か、女性客に受ける物でしてもらって、トッピングにピンク、蒼、黄色、紫、チョコとかの色がついたパウダーを掛けてくれればいい。できるか?」
 
 優介は考え込んでしまった。
 しばらくすると、目を輝かせて言ってくる。
  「見た目が華やかで、女性受けもよく、値段も変わらなければいいのですね。しかも最近流行のSNS映えを目的。明日、試験的に何個か作りますので試食お願いします」
 
 その言葉に敦さんだけでなく俺も即答していた。
  「よろしく」
 
 
 
 
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