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好きになったのは年上で意地悪な人 (87) 

 木曜日に退院した敦さんは週末までゆっくりしていた。
 入院中に考えていたことを話してくれた。
 
  「もう、どこにも行ったり来たりできない。一つの所に腰を落ち着けた方がいいと言われたけど、私はまだ60の半ばだ。まだ働ける。どうしたらいいのか、ずっと考えていた」
  「敦さんのやりたいことってなんですか?」
  「分からない。今までは絶え間なくオファーあったからな」
  「それなら新しく何かに挑戦されてはいかがでしょう?」
  「コンビニか?」
  「接客は向いてない気がする」
  「自分でも、そう思う」
  「趣味はなんですか?」
  「ヨットを走らせること」
  「んー……、どう考えても仕事にはなりにくいなあ」
  「あとは音楽を聴くことだな」
  「ジャズとか」
  「クラシック。ほら、この棚に入ってる」
 
 指さされた棚を覗き込む。
  「どんな……」
 
 ブルブルと震えていた。
  「ああ、そうか。クラシックを流してバーにするのもいいか」
  「敦さん、これらって……」
  「あ、そうだ。無理言ってCD買ってもらって、入院中は、これを聴いていたんだ」
 
 そう言って、バッグの中から取り出したのは一枚のCD。
 そう、4月末に発売した、俺の最新CDだ。
  「どうした?」
  「こんな偏りのある曲ばかり聴かないでください」
  「私は好きだぞ」
 
 嬉しいんだけど、そんな表情をさせるバイオリスト岡崎透なんて大嫌いだ。
 どうして自分に嫉妬しなければいけないんだ。
 どうにかして気持ちを抑える。
  「ヨットを思わせる店内にCDの曲をBGMにしたギャラリーって、どうですか?」
  「ギャラリーって、なにを展示するんだ?」
  「これらのパネルを壁に貼り付けるのです」
  「それだけだと金にならんだろ」
  「グッズを売る」
  「どうやって集めるんだ?」
  「この下のコンビニは主要国のチョコレートを売っています。そのチョコを仕入れて割り増した金額で売る。一角にバーを設置して、そのツマミになにかを添えるとか」
  「そうだなあ。私なら、そのチョコを添えて酒と一緒に飲むのがいいな」
  「その国のチョコと酒で飲むのっていいですよね。その国の話しで盛り上がりそうだ。シュークリームにしてもいいし」
  「シュークリームは悟のとこか」
  「いいと思いますよ」
  「そうだな。あのヨットのハーバー賃を払ってるから、ヨットを陸に引き上げてやるのもよさそうだ」
  「キャビンがあったので、すぐできますよ」
  「うん。なにかその気になってきた。でも、問題は売り上げだな」
  「師匠に話を持ちかけて、どうしたらいいかアドバイスをもらいます」
 
 
 コンビニ店長と師匠に話しをすると、二人とも目の色が変わった。
  「敷地が広いから置いてもいいぞ」
  「テナント代というか、チョコレートを買ってくれるのならOKだ」
  「本当に、それだけでいいのか?」
 
  「問題は酒だな」
  「それは大丈夫だ。一番の問題は客だ」
  「水曜以外なら道場通いの奴らがいる」
  「一日、何人通ってるんだ?」
  「平日は60人。休日は170人前後」
  「どこから来てるんだ……」
  「空手と少林寺と合気道だからな。土日祝祭日なんて親子で通ってくるぞ」
 
  「で、売り子は?」
  「その前に資格だな。販売登録者、調理師、もしくは栄養士か。保健センターの講座を受けて食物」
  「その講座は何ヶ月掛かる?」
  「一日だけ」
 
  「そういえば、徹君は販売登録者の資格持っていたよね」
  「そうですが……」
 
 優介が口を挟んでくる。
  「え、いつの間に」
  「あー、大学んとき」
  「へー、凄いや」
 
 新一さんが笑みの表情をしている。
  「そろそろ言ってもいいんじゃない」
  「なにをですか?」
  「CDの店を持ってグッズを売るという夢」
  「新一さんっ」
 
 その言葉に優介が反応する。
  「なんのCD?」
  「あのね」
 
 俺は遮るように大きな声を出してやる。
  「わー!」
  「徹、煩いよ」
  「言わないでください」
 
 あまりにも大きな声だったのか、優介の両手で口を塞がれてしまった。
  「彼はバイオリストなんだよ。有名なバイオリストで、この4月にもCDをだしている」
  「えっ、趣味じゃなかったの?」
  「そうだよ。バイオリンで生計をたてているんだ」
 
 
 優介の目は大きく見開かれ呆然としている。
  「あーん。黙っていたのにぃ……」
 
 
 
 
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