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好きになったのは年上で意地悪な人 (78) 

 3階に上がり呼び鈴を押す。
 そんなにも待たずにドアが開く。
  「なんだ、煩いな」
  「さっきのシュークリームは俺ので、敦さんのは、こっちです」
 
 はい、とプレゼント用に包んでくれた箱を持ち上げ見せる。
  「どっちでもいいんだけど」
  「よくないです」
 
 中に入れてくれたので安心した。
 テーブルの上にプレゼント用のシュークリームを置く。
 カードが挟まっているのを見つけたので、それを手にする。
 それには、こう書かれていた。
 ”徹、頑張れ”
 
 え、まさか優介にバレたのか。
 ありがとな、でもダメかもしれないんだ。
  「あの、4月に言ったオファーのことは忘れてください」
  「オファーって」
 
 その言葉で、考えてないことが分かる。
 もう終わりだ。
  「ギャラも払えないし、バカなことを言って申し訳ありませんでした」
  「なかったことにするのか。それもそうだな」
  「思い出になります。ありが」
 
 バチンッと叩かれた。
  「いってぇ」
  「人の気持ちを振り回すな」
  「敦さん」
  「今日まで入院して、どこにも連絡できなかった。だけど考える時間はたっぷりあった。声が聞きたいと思ってもなにもできずに不甲斐なさを感じていた。あの男は9月を待たずにクビになるだろう。徹は私をどう思っている? 私は、こんなに長続きしたことがないし恋愛に臆病になっているんだ」
 
 あまりにもの言葉に押され気味になっていた俺は、これしか言えなかった。
  「え、え、ちょっと待って。入院ってなに? あの男って誰?」
  「何も食べるものがないし」
  「あ、シュークリームなら」
  「ワインで我慢するか」
  「ダメですっ」
 
 思わずワインボトルを引ったくり取る。
  「どうして?」
  「入院されてた原因は分かりませんが、病み上がりにアルコールはダメです」
  「何もないのに、何を口にしろと?」
  「お茶を煎れます」
 
 そこまで言って気が付いた。
  「あ、昨日作りすぎた煮物がある」
  「何もないよりはマシだな」
  「持ってくるので待っててくださいね」
  「ワインは持って行くな」
  「あ、そうでした」
 
 
 自分の部屋に戻り、作りすぎた煮しめとカボチャの煮付け、ほうれん草のお浸し。
 炊飯器の中にある白米で、お握りを作り持って上がる。
 自分用のシュークリームを忘れずに冷蔵庫の中に入れ、安心した。
  「お待たせしました。お握りも作ってきました」
  「気が利くなあ」
 
 
 二人で昼食を食べ一息ついた頃を見計り、俺は聞いていた。
  「入院って、病気ですか?」
  「怪我だ」
  「どこで」
  「会社で」
  「え、会社?」
  「あの男は、お前を探している。私に夢の島へ連れて行ったのか、どこに居ると聞いてくるが、自分の意思で退社したんだ。私に分かるわけない。だから言ってやったんだ。彼は彼なりの思いがあったのだろうって。それを、あの男は色々と言ってきて、階段の上から突き落としてきたんだ」
  「あの男って誰ですか?」
  「もう忘れたのか。あの男に何回かエッチされていただろう」
 
 その言葉で、分かった。
  「ええ、利根川……」
  「突き落とされたとき、ロビーに怜が居た。頭を抱き留められたが下半身、主に脚を打って骨折した。そのまま病院行き」
  「そんなことが……。あの人は、なんてことを」
 
 それ以上、何も言えなかった。
 敦さんの言葉は続いている。
  「お陰で怜は有休を使い、私に張り付いていた。他の兄3人に連絡して、4人が日替わりで来ていた。本当に鬱陶しかった。しかもスマホを取られ、どこにも連絡できなかったし。そこまで私を探し出すのは何故なんだ……」
  「4人って」
  「子どもだ」
  「子だくさんなのですね」
  「ここがバレるのも時間の問題だな」
  「居場所を知られたくないのですか?」
  「形見分けは、生前分与で渡している。これ以上、なにを求めているんだ」
  「甘えられると嬉しいでしょう」
  「めんどくさい」
 
 分かりやすい嘘をつく人だな。
 めんどくさいと言いながらでも、目元は綻んでいるよ。
 
 
 

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