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好きになったのは年上で意地悪な人 (70) 

 副社長と対面して、峰岸は叫んでいた。
  「冗談じゃな! ……なかったんですか?」
  「本当だよ。タイミングがなくて言えずじまいで終わりそうだったからね。ささやかな時間というプレゼントを岡崎君に贈った」
  「そんな冗談を真に受ける副社長も」
 
 だが遮ってくれる。
  「本来は、4年前の3月末付けでやめていた」
  「え?」
  「それを延ばしていた。だけど、彼のキャパを超えることがあって、待ちませんと言われてね。彼は頑固な所もあるからねえ」
  「そんなことは何も」
  「山岡君は欲を出し、もっと力を付けたいという理由で辞めた。岡崎君は迷いながらでも常務秘書の後釜を育てて辞めた。残るは峰岸君。君はどうしたい?」
  「どう、とは?」
  「桑田コーポレーションに骨を埋めるかどうかだよ」
  「岡崎にも言いました。上二役のメインになることが私の夢だと。でも。あいつは常務秘書になることが夢だと言っていた。同じ夢を持っていなかったのかと思うと悔しくて……」
  「人間が違うんだ。見る夢が違うのは当然だ」
  「ですね。でも、私は上二役のメインになりたい。それが骨を埋めることになるのかどうかは分かりません」
 
 副社長は椅子に座り直す。
  「この春、秘書課に8人が入ってくる」
  「8人……」
  「4月5日付で辞令が下りる。二人の専務につきメイン一人ずつにサブが3人という体制になる」
  「はい」
  「村上君だが、彼は専務秘書のサブに入り、君のところにサブを入れる」
  「はい」
  「この週末を利用して専務部屋をリフォームした。専務室は二部屋だが、しきりはある」
  「あの」
  「なんだい?」
  「私は常務秘書です」
  「うん。君にも知ってもらいたくてね」
  「そうですか」
 
 
 私にとって副社長の話しはどうでもいいことだ。
 少しばかり聞いていたが、口を挟んでいた。
  「副社長、そろそろ帰りたいのですが」
  「ああ、そうだね。二日間の研修、お疲れさん」
 失礼しますと言って部屋を出る。
 いったい、どうしたのだろう。
 
 
 荷物を置かせてもらっているクロークに向かうと課長が居た。
  「課長、お疲れ様です」
  「峰岸君、お疲れ」
  「あの、岡崎を見かけませんでしたか?」
  「岡崎君なら2,3分ほど前に帰ったよ」
  「2,3分……」
 
 そういうことか。
  「あの副社長はあ……」
  「お、どうした、怖い顔して」
  「帰ります。お疲れ様です」
  「お疲れ」
 おー、怖そうな顔だなあと秘書課長は呟いてる。
 
 その場で電話するが、中々でないので、もう一度切り直して電話する。
 
 
 ポケットに入れていた元岡崎のスマホがバイブっているのか。
 それを取り出し見るが、番号だけなので誰なのか分からない。
 一度、切り直したのか、再度バイブってくる。
 繰り返すこと4回目。
 当の本人は気が付いてないので、仕方なくでてやる。
  「はい」
  「あ、やっと出てきた。おい、岡崎っ」
  「あー、耳が痛い」
  「お前が、中々、電話にでないからだろっ」
  「峰岸君の怒鳴り声って初めて聞いたよ」
  「なにふざけたこと言って……」
 
 何かに気が付いたのか、峰岸は振り返ると電話を切った。
 切られたので、こちらも切りポケットに入れる。
 
 
 5度目の正直。
 電話したら、目の前で課長が耳に当て「はい」と返事をしている。
  「どうした? 何も用事ないのなら電話するなよ」
  「私は……、私は、岡崎に」
  「話しを聞いたのだろう?」
 
 そう言って見せてきたのは、会社から配布される名札と社員証と自分のナンバーが液晶画面に写っているスマホだ。
 
 その3点を課長が持っている。
 そういえば、岡崎は課長を待たせていると言っていた。
 それが、この3点渡しのことか。
 
 それが意味することは、一つだけ。
 
  「あ……」
 
 自分のスマホが手から滑り落ちていくのが分かる。
 何かが崩れていく。
 
 
 
 
 
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