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好きになったのは年上で意地悪な人 (69) タイムリミット

 あと数分しかない。
 最後の曲がり角に着いたとき、足を止める。
  「ここを左に曲がった部屋に居る」
  「分かった」
 
 峰岸は左に曲がる。
  「峰岸」
 
 その声に峰岸は振り向いてくる。
  「お疲れ」
  「ありがとう。峰岸も、お疲れ様」
  「それじゃ」
  「俺、今日付けで退社するんだ。お世話になりました。元気で」
 
 呆れた声が返ってくる。
  「お前ね、こういうときに、そういう冗談を」
  「副社長、待ってるぞ」
  「あー……」
 
 峰岸は、俺に何か言いたそうにしている。
 それは嬉しいことだ。
  「それじゃ、元気で」
  「あ、おい、岡崎、待て」
  「副社長の性格知ってるだろ。俺は課長を待たせてるんだ。じゃな、お疲れ」
 
 
 クロークへと走った。
 俺の顔を見て「お疲れ」と言ってくれた。
 それだけでいい。
 ありがと。
 さよなら、峰岸。
 
 
  「課長っ」
  「おー、走ってきたのか」
  「お待たせしてすみません」
  「いいよ。で、なに?」
 
 ポケットに手を突っ込み、配布されていた名札と社員証とスマホを取り出し渡す。
  「電話もメールも削除しています。アドレスも削除しました。今まで、お世話になりました。お元気で」
  「岡崎君も元気で。君は頑張り屋だから、どこででもやっていけるよ。体調には気を付けて」
  「ありがとうございます」
  「峰岸君には?」
  「話しました。だけど冗談に取られて……。でもいいんです。自分から言えたので」
  「本当にいいの?」
  「峰岸は、私の顔を見て”お疲れ”と言ってくれたんです。意味合いは違うけれど嬉しかった」
  「そうか、それはよかった」
  「あいつは一人でしたがるがら、誰かに頼ることも必要だよと言いたかったのだけど……。それ言うと怒られるだろうなと思って言えなかった」
  「わははっ。分かるよ、それ」
 
  「本当にありがとうございました。お世話になりました」
  「元気でな」
  「課長も。それでは失礼します」
 
 
 ホテルから出て駅へと向かう。
 タイムリミットだ。
 じゃあな。
 明日からは、新しい自分に挑戦だ。
 
 
 
 
 
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