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好きになったのは年上で意地悪な人 (64) 

 あっという間に時は過ぎ、残すところ今日を入れて、あと3日になった。
 終業間近になろうとしているときに声が掛かる。
  「岡崎、送ること」
 
 ああ、この人がいたっけ。
  「お断りします」
  「お前、付き合い悪いな」
  「明日、明後日は研修があるんですよ。準備しないといけないので」
  「研修……。ああ、秘書全員のがあるって言ってたな」
 
 最後の研修になる。
 さて、と。
 俺の担当は日曜の16時だから、それに使う物を買って帰ろう。
 
 結局、副社長と秘書課長だけでなく瀬戸常務も重森君も、誰にも話さなかったみたいだな。
 
 葬式が終わり瀬戸常務と重森君の二人に話すと、こう返ってきた。
 瀬戸常務の言葉は、こうだった。
  「私は、どうして常務に二人いれるんだろうと不思議だったね。副社長から誰にも言わないようにと深く念を押されて、誓約書まで書かされたんだ」
  「誓約書って……」
  「だから、誰にも言ってない」
  「常務……」
  「このまま岡崎重森コンビでやっていけたらいいなと思っているんだ」
  「ありがとうございます」
  「どう?」
  「お気持ちはありがたくいただきます」
  「やっぱり無理か」
  「次の仕事を決めてますので」
  「秘書するの?」
  「いえ、接客です」
  「接客……。営業かな」
  「いえ、販売です」
  「未知なる分野か」
  「そうです」
  「どこに居ても、岡崎君ならできると思うよ」
  「ありがとうございます」
  「気を抜いたら、どっかの誰かさんに話してしまいそうだから口チャックだな」
  「お願いしますね」
 
 
 重森君は、こう言ってきた。
  「実は、秘書課長から岡崎さんが退社することを教えてもらい、本当は渋っていたのです。岡崎さんの跡になるからと言われて。専務秘書のサブだけでなく、上二役と専務のメインもすっとばして、いきなり常務秘書だなんてと。本当に渋っていたんですよ。誰か、教えてくれーって、こんがらがっていました」
  「で、どうだった?」
  「専務秘書のメインを2ヶ月ほどして戻ってきたとき、思わず言ってました。瀬戸常務を見て”戻ってきたー”と。本当に、そう思ったんですよ」
  「上二役をやっていないから大変だったと思うよ」
  「専務秘書のメインをやっていて一番大変だったのは、サブに指示を出すことだったんです」
  「メインはサブを育成する立場だからね」
  「一人のほうが楽だと思いましたよ。岡崎さんはどうでした?」
 
 役付けになった頃のことを思い出しながら応じていた。
  「専務のサブをやり、がむしゃらにメインにくっついていた。3年経つと周りが見え、メインのまねごとをするようになった。6年目に上二役のサブになった。私は副社長のほうだったんだ。それから2年後、専務のメインに抜擢された。それから去年の5月まで利根川専務のメインをやっていた」
  「凄い。峰岸さんも凄いですよね」
  「あいつは私と入れ替わるように上二役のサブになったんだ」
 
 
 そこで気が付いた。
 そうか、あいつは自分より上を行く奴を蹴落として行くよりも、俺と一緒に過ごしたかったのか。
 俺のほうが、あいつより早く上二役のサブをやって、交代するかのように峰岸も副社長のサブになったから焦っていたのか。だから、担当を付けるな。自分一人でできると言っていたのか。さみしがり屋なんだな。
 でも、残された時間は二日間しかない。
 
 同期入社の他の奴らは長付きになったり、10年ぐらいで退社したから、役付きになったのは俺とあいつだけだ。
 このまま黙って退社はできない。
 せめて、あいつに一言、言いたい。
 
 
 佇まいを正して、礼をする。
  「短い間でしたが、お世話になりました」
  「元気で」
  「ありがとうございます。常務も、お元気で」
 
 重森君は寂しそうな表情をしている。
  「重森君。明日と明後日があるから、まだ言わないよ」
  「あ、そうですね」
 
 
 
 
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