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好きになったのは年上で意地悪な人 (61) カミングする

 3月も中旬になった。そんなとき、重森君が戻ってきた。
  「お帰り」
  「ただいま。メインはきつかったです」
  「上二役をやって専務のメインだからね」
  「なんか瀬戸常務を見てたら安心します」
  「あはは、瀬戸常務は癒し系だからね」
  「そうですよ。ああ、ホッとする」
 
 重森君には悪いが、すでに瀬戸常務には言ってある。
  「重森君、戻ってきてそうそうなんだけど、今週の木曜から来週の月曜まで休むのでよろしくね」
  「病院ですか?」
  「仲のいい従兄が死んで、葬式に来て欲しいと言われて」
  「お悔やみ申し上げます」
  「ありがとう。申し訳ないが」
  「いいですよ。久々の親戚一同集まりますからね」
  「ごめんね」
  「いえいえ、土日ありますし、大丈夫ですよ」
 
 
 父方の従兄。
 俺を含めて9人いるが、その従兄とは仲が良かった。9人のうち、男は従兄と俺の二人だけだった。お兄ちゃんがいなくなると男は俺だけになる。サキ姉とは違い、安心して甘えることができていた。
 寂しいな。
 仲良くしてくれてありがとう。
 
 
 日曜の夜、戻ってくるとドアの前に誰かが立っている。
  「お帰り」
  「あ……、ただいま」
 
 通夜だけでなく葬式、初七日の法事と終わったが泣けなかった。
 でも、なぜかこの人の前だと泣けてくる。
 ドアを開け中に入ると玄関先で抱きついていた。
 敦さんは優しく背を叩いてくれる。その手つきと温もりに安堵する。
  「俺、俺」
  「何も言わなくて言い。泣きたいときは泣け」
 
 その声と温もりに安心して泣いていた。
  「俺、皆に隠していることがあるのです」
  「今は」
  「言いたい。父親と姉と、死んでしまった従兄しか知らない。でも敦さんに言いたい。言いたくなった」
  「徹……」
  「こちらへ、どうぞ」
 
 
 1ルームでもLDKが広いので、俺は自分で防音室を作っていた。その部屋に招き入れる。
  「これは……」
  「バイオリン聴いて貰えますか?」
  「いいけど」
  「お兄ちゃんの追悼の意を込めて奏でたい」
 
 リサイタルには欠かさず聴きに来てくれていた。
 いつも、この曲を奏でていた。
 お兄ちゃんの好きな曲、ビバルディの四季。
 
  「凄い。素晴らしい」
 
 それと、もう1曲。
 来月の4月下旬に発売されるCDの中の1曲だけど、この曲は従兄のリクエストだった。
 それは自分で創ったオリジナル曲だ。
 
 その2曲を奏で終わると、俺は話していた。
  「俺は岡崎徹。だけどバイオリンを奏でるときは母の名を一文字もらって、透明の透という字をあてて、岡崎透にしています」
  「え……」
  「あなたが知っているバイオリニストの岡崎透の正体です。これが、隠していることです。親友の優介にも言ってない。従兄が死んだ今、このことを知っているのは父と姉の二人だけ。母はすでに他界しています」
  「徹……」
  「ごめんなさい。俺、やっぱり隠し事できない」
 
 その日、初めて他人を寝室に入れた。
  「ベッド狭いかも」
  「そのほうがくっついてられるぞ」
  「寝相が悪かったらごめんなさい」
 
 
 宮田敦も感じていた。
 何か隠していることがあるなと。
 年の功とも言うか、特に日本人は隠し事を好む者である。他国で仕事をしていた頃は日本人なんて鬱陶しいと思っていた。
 
 大学時代、普通なら交流しないだろう医学部と4年間交流していた。
 日中ハーフもいれば、日米ハーフ、日伊ハーフ、香港人もいて、オープンな彼らに段々とハマってしまっていた。
 一番交流に積極的だったのは新田だが、私もよく行っていた。
 色々と考えるのが好きな連中で、ゼミの教授は日独ハーフのサメ。
 その教授のオープンさもあり、退屈しなかった4年間。
 
 学生結婚して子どもも4人産まれ幸せだった。
 
 徹は、あの透と同一人物なのか。
 私の知っている岡崎透はバイオリンを持つとクールな青年だ。
 でも徹は体育系で元気いっぱいな若者。
 うまくバランスが取れていたのだろう。
 
 お休み。
 ゆっくり寝て火曜日からは仕事に戻っておいで。
 あと少しだね。
 
 
 

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