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甥っ子コンプレックス (34) 

 数年後、ヒロはドイツに来たらしい。
 詳しい事を知りたくて執事のフランツに目をやる。

 その話を聞いた私は『御』に向かって、詰め寄った。
 「私より、ヒロに跡を継がせるおつもりか?」
 「まだ、そんな話はしてない」
 「死別とは言え、私には子供と孫がいる。いずれも男子だ。私に」
 「マルク。ヒロトは戻ってきたばかりだ」
 「それでも、話をするつもりでしょう?」
 「今すぐにはしない」
 「ここの跡取りは、この私だ」

 この二人の言い争いを止めるべく、フランツは口を挟んだ。 
 「マルク様。ヒロト様を『御』と顔を合わせない様にするのが、当面の問題です」
 「なら、どうしてヒロは、ここに来たんだ?」

 フランツは、主である『御』に目を向けると、『御』は一言で済ませた。
 「あいつの顔を見たかったからだ。あいつは日本に帰ると音沙汰が無かったからな」
 「それなら、貴方が日本に戻れば良かったのでは?」
 「それで、飛行機事故に遭って死ねば、自分が『御』になれるとでも思ってるのか?」
 「たまには、里帰りでもしたいでしょう。なにしろ日本にはリョーイチも居るし」
 「そうだな。龍三や和田も居るし、矜持も居るからな」
 「ヒロもヒロだ。そんな危篤という話を信じて来るなんて…」
 
 だが、この男はスルーしてくれる。
 フランツは、何かを思い出したように言ってくる。
 「そう言えば、マルク様。明日から2ヶ月程いらっしゃらないのでしたよね?」
 「ああ、北欧に行くから」
 「お支度、お手伝いします。『御』は、ご自分で考えて下さい」
 「フランツに任す。私はヒロの屋敷に行く」
 「畏まりました」

 
 コンコンッ・ブー…と門柱に付いてる鍵をノックする。
 「はいはい。開いてるよ~」

 (開いてるのか、不用心な奴だな)と思いながら、マルクはヒロトの屋敷に入った。
 「ヒロ、久しぶりだな」
 「マルク?ああ、久しぶりだな。お爺様の、違った、『御』のご容態はどんなだ?」
 「相変わらずだ」
 「危篤のまま、という事か…」
 「ヒロ、私は」
 「マルク、私はドクターだ。専科は違うが、それでも知りたい。ランチが終わったら、フランツに連れて行ってもらうんだ」
 「フランツは、私の支度をしている」
 「マルクの?」
 「ああ。明日から2ヶ月ほど北欧に行くのでね」
 「北欧か。無理せずに体調を崩さないでね。なら、回診後の面会時間で良いか…」

 その時、ヒロの雰囲気が違うのに気が付いた。
 今、目の前に居るヒロは、あの頃とは違って冷たさを感じない。
 誰も信じない、誰も寄せ付けない。あの頃は、ヒロトの信じるものは、『御』と、叔父である私の存在と言葉だけだった。それが、今は気遣いの言葉を口にしている。
 「そうだ、ヒロ。私と一緒に行かないか?」
 「病院に?」
 「北欧の病院にだよ」
 「えっ…。病院って、北欧の病院に入院してるのか?」
 「ヒロも知ってるだろ?モーガンを」
 「え・・、本部のモーガン?」
 「そうだよ。そのモーガンが北欧でオペマスターをしてるんだ」
 「へー、そうなんだ。本部ではオペをしながら人事の仕事もしてたよな」
 「その北欧を開拓していくんだ。2ヶ月程で最後の詰めをしていく」
 「体調に気を付けて行って来てね。私は、ここで留守番しとくよ」
 「ヒロ?」
 「私は、お爺様の側に居たい」
 「相変わらず頑固だな」
 「マルクに言われたくないね」
 「言う様になったな」
 「どういう意味?」
 「ああ言えば、こう言う。こう言えば、ああ言う。あの頃は素直に私の言葉に耳を傾けてたのに。
 ねえ、ヒロ。どうしてなのかな?そんなに私が信じられないのかい?」
 「マルク、私はお爺様が危篤だと言われて来たんだ。それを、マルクのお供として北欧に行こうとは思わないよ」
 「なるほどね…。ところで、いつまで居るつもりなんだい?」
 「それは、お爺様のご容態次第…」
 「ヒロ。あの方は、直ぐには死なないよ。なにしろ、ここのドクターは腕が良いからな」
 「それもそうだな…。でも、一目だけでも」
 「ほんとに頑固なんだね」
 「だって…」

 そんなヒロトを見て、くすくすっと笑っていた。
 「ヒロ。そんなだと、好きな人は出来ないよ?」
 「え、そうかな?」
 「うん。好きな人が出来るとね、その人を大事に想ってしまうものなんだよ。ましてや、頑固で自分の言いたい事を言ってる人には、誰も寄ってこないよ」
 「え…、そうなの?あ、でも友は…」
 「ん?」
 「いや、あっちも頑固だけど?」
 「あっち?」
 「うん、私の恋人」
 「は?恋人って、ヒロ…?」
 「勇気を出して告白したんだ。そして、今は両想いなんだ」







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