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年齢も国籍も関係ない、欲しいのは一言だけ 後編(4)

フラットに戻ると、息子がパン屋で売り子をしている。
フラットのオーナーだけでも生活出来るだろうに。いや、だけど私が戻って来たのだから、パン屋だけになるかもしれないな。
私は、勉の世話にはならない。
一人で生活できる。
だが、一人だと限界も早くなるもんだ。
それは、この3年間で分かってる。

その時、ニックの事が頭の中に浮かんできた。
結婚して早くに奥さんに死なれて、男手一つでクリスを育てた兄。
いつの間にか男しか愛せなくなっていた、と教えてくれた。

丁度良い。
日本からの手土産を持ったままなのを忘れていたので、これを持って行くか。

街の中心部へ、ニックの家へと向かった。
どっちみち話をするつもりだったのだから、早い方が良いかもしれない。




門柱から金髪が見え隠れしてるのが目に映る。庭で何かしてるのかと思い近寄る。
姿の見える近くまで寄ると、門外から大きめな声で呼び掛けてやる。
 「ニック、アロー」
 「アロー」
こっちを振り向いてくれた兄の顔は目が大きく見開いてる。
 「…ジョ、ジョージ?」
 「こっちに戻って来たんだ」
 「へえ、そうなんだ。お帰り。ちょっと待ってな、すぐ開けるから」


他にも弟妹が居るが、まだ兄の方が良い。
弟妹は金に目が無く、物欲しげな顔ですり寄ってくるからだ。
でも、兄は違う。
金もあり、欲しい物は無い。と、はっきり言う奴だから。
そんな兄に手土産を渡し、話す。
 「離婚して、一人になって戻って来たんだ。ニックは、その…」

言葉に詰まった私に、ニックは驚いた顔をしていた。
まあ、そうだろう。
 「離婚したのか…。なあ、ジョージ。人生って波有り山有りって言うだろ」
 「それ言うなら、山有り谷有りだ」
 「そっか…、俺はバカだからな。でも、人間、いつかは一人になるんだよ」
 「それは分かってる」
 「お前は、まだ若い。最初の内は良いかもしれないが、その内に何もしたくなくなる。
好きな奴を見つけるか、もしくは何かに打込めるものを見つけるかしたらどうだ?」
 「ニックはどうだった?」
 「俺はクリスが居たから。だから、あいつが死んでも生きていれるんだ」
 「今は?」
 「好きな奴が居るから良いんだ」
 「一緒に暮らしてる人?」
そう聞くと、ニックは幸せそうな表情になり、こう返してくる。
 「ところで、仕事はどうするんだ?」
 「在宅で仕事」
 「まあ、インターネットさえあれば出来るって言うからな」
 「ああ」
 「生活出来るのか?」
 「日本で2年間、生活出来たんだ」
 「こっちは日本より物価安いからな…」
 「ニック…」
 「俺は、昔とは違う。あの二人は金が無いと言って強請りに来るが、俺は1フランもやってない。
最初の内は貸してたが、返す事をしないからな。
お前はどうだ?」
 「ニック、私は金の無心に来たのではない」
 「ま、金持ってるもんな」
 「出来るなら、仕事を斡旋して欲しいんだ」
 「そっちかあ…」

 「デスクワークしかやってきてないから不安なんだけど」
 「オーナーの仕事は?」
 「勉がオーナーとパン屋をしてるから、取り上げたくない」
 「どこに住むんだ?」
 「フラットの事務室に仮眠室があるんだよ。そこが思ったよりも広くて居心地が良くてね」

笑いながらニックは言ってくる。
 「親子揃って同じ事を言うんだな」
 「何が同じ事?」
 「トイレとシャワーしか付いてないベッドルームだろ?」
 「知ってるのか?」
 「酔っぱらってた時、クリスの部屋で寝たかったのに、あの部屋に押し込まれたんだよ」
 「なる」
 「その時、ジョシュアに言われたんだ。『この部屋はゲストルームです。広くて居心地良いですよ。だから使ってください』ってね。まあ、居心地良かったから良しとしてるんだ」

それを聞き、思わず溜息吐いていた。
 「あいつは…」
 「しっかりオーナーしてるんだな、と思ったね」
 「失礼な事を言ってないか、それが不安だな…」
 「大丈夫だよ」


仕事の条件を書いて、それを渡す。

 「連絡先教えてくれ。何か言い案件あったら知らせる」
そう言われ、メアドを教えたらディナーのお誘いを受けた。
ニックの経営するカフェの一つに食べに行く事にする。
ニックは三つのカフェに、イタリアンレストランをパリで経営している。
これから食べに行こうとしているカフェは、近場にある。
たまには兄弟揃って食べに行くのもありだな。



勉に連絡入れたら、すぐに返事が着た。
 「クリスと一緒に行く」

ニックに言うと、ぼやいていた。
 「クリスの考えは分かっている。美味いもんをたらふく食って自分を売り込み、バイト先を増やそうという魂胆だ。そこにジョシュアが乗っかってくるなんて…」
 「もしかして、子供の食った料金は親が払うのか?」
 「クリスは、それを良しとしないから大丈夫だ」
 「ならOKという事で返事するぞ」
 「あ、そうだ。ラ・ポンテに行くか」
 「ラ・ポンテって、飲むのか?医者に止められてた筈では…」
 「シケた事を言うなよ。ジョージの完全帰国祝いだ」

 「な。ジョージ、お帰り」
兄の、その言葉と笑顔とハグに、帰国して初めて心から笑みが広がる。
 「ただいま、ニック」




ラ・ポンテの店先に、ご機嫌な声が聞こえてくる。
 「わーい、ラ・ポンテだぁ~」
 「お酒って、あんまり飲まないのだけど…」
 「気分だけ飲んで、後は食ってりゃ良いんだよ」

 「あ、ダディ・ニック見っけ~」
 「はいはい、飲んでもないうちから、ご機嫌だな…」

 「お父ちゃん…」
 「察するに、あのメールはクリスだな」
 「ごめんなさい…」
 「まあ良いさ、気の置けない奴等と飲むのは楽しいからな」
その言葉に反応したのはクリスだ。
 「そう言ってくれると嬉しいな~」












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兄弟との会話ですね。
しかも完全帰国を祝って飲みに行くだなんて、御相伴にあずかりたいわぁ~
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