年齢も国籍も関係ない、欲しいのは一言だけ 前編(2)
「で、私の寝室は?」
「来る時は、連絡下さい」
溜息吐いて、再度聞いてくる。
「今夜から、どこで寝ればいいのかな?」
何も言えない。
「勉…」
悩みに悩んで考えた末の言葉だった。
「お婆ちゃんの、住んでた所…」
「あんな所に住めない。第一、利便性が悪い」
利便性。
その言葉で思い出した。
「いや、あるじゃん。あそこ」
「あそこって?」
俺は言っていた。
「ニックの家」
途端に渋い顔をされた。
「ニックは…」
「あそこは中心部だし、会社にも近いよ。ね?」
ニックは、父の4歳年上の兄だ。
溜息吐き、父は言ってくる。
「だけど、今夜はここで寝る」
考えた勉は、分かったと呟いて行動に移した。
そう、2階は明の部屋にしてるのだ。
そこで寝ても良いが、今夜は離れて寝た方が良いだろう。
なので、1階の寝室に父を寝さすことにする。
自分は、フラットオーナーの事務室に併設しているプライベートルームで寝れば良い。
この為にプライベートルームを作ったわけでは無いのだが、あまりにも広すぎる事務室にトイレ兼シャワー付きのベッドルームを設けておいたのだ。
こっちで寝させるのも有りだが、それは無理だろう。
年老いた老人向きでは無いからな。
だが、父は言ってきた。
「こういう部屋があるのなら、ニックの所には行かない。ここに居る」と。
「でも」
「で、私が使う」
「え」
「気にしなくて良い。連絡しないで来たのだから」
「まあ、それはそうだけど…」
翌日。
話し声で目が覚めた。
「…、じゃ、行ってきます」
「アルマンド、気を付けて行ってらっしゃい」
息子が、フラットオーナーの仕事をしてるみたいだ。
ここに来たのには理由がある。
もちろん、会社も大きな理由だが、それ以上に気になっている事があるからだ。
「ツトムー、おはよぉ」
「おはよ、クリス。今日よろしくね」
「はーい、こちらこそよろしく」
「オーナー、おはよう。今日、荷物が届くと思うのでお願いします」
「おはよう、ジャン。はい、受け取っておきます。帰宅されたら受け取りに来てくださいね」
「よろしく」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」
「ダンケ」
あそこの家では、まだ小さい子供が2人いるので世話も掛かるし金も掛かる。
帰りの遅い自分にとっては癒しの対象になるのだが、どうしても居場所が見当たらない。
まだ会社で仕事をしてる方が良い。
本来ならば、若い社員が来るべき事柄なのだけど、私が来たんだ。
ビザやパスポートの更新もあるのだが、自分の居場所を見つけたい、と思って。
でも、きちんとオーナーの仕事もして、パン屋もしてる。
私の出番は終わりなんだな。
勉、詳しい事は言ってないが、私は国籍はフランスなんだよ。
お前と、同じフランス人なんだ。
ここで生まれ、3年後には日本に移ったんだ。
だが、お前と違い、私は父親の血が濃く受け継がれた。だから黒髪に黒目なんだ。
お前は隔世遺伝で祖母の血を継ぎ色素の薄い髪に瞳だが、私にとっては唯一の血を継いだ人間なんだ。
それに、パスポート更新の住所先はニックの所にしてるだけなんだ。
あそこでニックと暮らそうという気は無い。
何時だったか、勉が泣きながらに言ってくれた言葉を思い出していた。
『気持ちは嬉しいのだけど、お金を貰ったから、どうこうなるとは思ってないよ。
俺はね、フランス人なんだよ。フランスで生まれて、フランスで10年間過ごした。虐められることはなく、楽しい思い出しかない。
フライトの虐めなんて可愛いモノだったし、精神的には何のダメージも無かった。
だけど、日本ではよく虐められた。小学校や中学校なんて、特にだ。物を盗られたり、壊されたり、挙句の果てには髪の毛を引っ張られたり墨で黒く塗られたり…。学校の先生にまで、そうされたんだよ。
でも、あの学園は違った。違和感なく落ち着いていられた。
だけど、あの事件があって俺は変わった。
あの時、あの3人は謝る気は無かったのに、なぜ謝ったのか。それは直ぐに分かったよ。
ねえ、お父ちゃん。
俺はね、あの時、精神的ダメージをこれでもか!と言うほど受けたんだよ。
男3人に犯されたうえに、麻薬を使われたんだよ。
日本は清潔で危険度は低いと言われてるが…、その日本で、俺は危険な目に遭ったんだ。
そのお金は何の金なの?
あの3人から慰謝料をふんだくったの?そのお金なら受け取るよ。
でも、そうでないのなら要らない。』
そのふんだくったお金をユーロに換金して持って来てるのだが、受け取ってくれるだろうか。
部屋から出て、オーナーの事務室へ行く。
「勉」
「あ、おはよう」
「おはよう。勉、これを渡したいんだ」
「それは何?」
「3人分のだ」
「3人って何?」
「日本円で2800万円を、ユーロに換金したんだ。受け取って欲しい」
「え、何のお金?」
「お前の、その…、お前が入院していた時に、親から慰謝料を貰ってたんだ」
勉は叫んでいた。
「入院…?って、え、あの時の?」
2800万円分のユーロ……。
小切手になっていたので安心したが、これがユーロで幾らでしょう?と聞かれたら直ぐには答えられないだろう。理数系は、からっきしな頭の持ち主の俺は健在だ。
「お父ちゃん…」
「渡したかったんだ」
「ありがと…」
父子の溝は浅くなったのかどうかは分からない。
だけど、いつかは話したい。
自分の生い立ちを。
そう、強く思った勉の父だった。
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そう、今回のお話は、この御方。
勉、ジョシュアと呼ばれてる父親のお話なんです。
渋い年齢です(きっぱりw
60歳を超えてるんですもの
「来る時は、連絡下さい」
溜息吐いて、再度聞いてくる。
「今夜から、どこで寝ればいいのかな?」
何も言えない。
「勉…」
悩みに悩んで考えた末の言葉だった。
「お婆ちゃんの、住んでた所…」
「あんな所に住めない。第一、利便性が悪い」
利便性。
その言葉で思い出した。
「いや、あるじゃん。あそこ」
「あそこって?」
俺は言っていた。
「ニックの家」
途端に渋い顔をされた。
「ニックは…」
「あそこは中心部だし、会社にも近いよ。ね?」
ニックは、父の4歳年上の兄だ。
溜息吐き、父は言ってくる。
「だけど、今夜はここで寝る」
考えた勉は、分かったと呟いて行動に移した。
そう、2階は明の部屋にしてるのだ。
そこで寝ても良いが、今夜は離れて寝た方が良いだろう。
なので、1階の寝室に父を寝さすことにする。
自分は、フラットオーナーの事務室に併設しているプライベートルームで寝れば良い。
この為にプライベートルームを作ったわけでは無いのだが、あまりにも広すぎる事務室にトイレ兼シャワー付きのベッドルームを設けておいたのだ。
こっちで寝させるのも有りだが、それは無理だろう。
年老いた老人向きでは無いからな。
だが、父は言ってきた。
「こういう部屋があるのなら、ニックの所には行かない。ここに居る」と。
「でも」
「で、私が使う」
「え」
「気にしなくて良い。連絡しないで来たのだから」
「まあ、それはそうだけど…」
翌日。
話し声で目が覚めた。
「…、じゃ、行ってきます」
「アルマンド、気を付けて行ってらっしゃい」
息子が、フラットオーナーの仕事をしてるみたいだ。
ここに来たのには理由がある。
もちろん、会社も大きな理由だが、それ以上に気になっている事があるからだ。
「ツトムー、おはよぉ」
「おはよ、クリス。今日よろしくね」
「はーい、こちらこそよろしく」
「オーナー、おはよう。今日、荷物が届くと思うのでお願いします」
「おはよう、ジャン。はい、受け取っておきます。帰宅されたら受け取りに来てくださいね」
「よろしく」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」
「ダンケ」
あそこの家では、まだ小さい子供が2人いるので世話も掛かるし金も掛かる。
帰りの遅い自分にとっては癒しの対象になるのだが、どうしても居場所が見当たらない。
まだ会社で仕事をしてる方が良い。
本来ならば、若い社員が来るべき事柄なのだけど、私が来たんだ。
ビザやパスポートの更新もあるのだが、自分の居場所を見つけたい、と思って。
でも、きちんとオーナーの仕事もして、パン屋もしてる。
私の出番は終わりなんだな。
勉、詳しい事は言ってないが、私は国籍はフランスなんだよ。
お前と、同じフランス人なんだ。
ここで生まれ、3年後には日本に移ったんだ。
だが、お前と違い、私は父親の血が濃く受け継がれた。だから黒髪に黒目なんだ。
お前は隔世遺伝で祖母の血を継ぎ色素の薄い髪に瞳だが、私にとっては唯一の血を継いだ人間なんだ。
それに、パスポート更新の住所先はニックの所にしてるだけなんだ。
あそこでニックと暮らそうという気は無い。
何時だったか、勉が泣きながらに言ってくれた言葉を思い出していた。
『気持ちは嬉しいのだけど、お金を貰ったから、どうこうなるとは思ってないよ。
俺はね、フランス人なんだよ。フランスで生まれて、フランスで10年間過ごした。虐められることはなく、楽しい思い出しかない。
フライトの虐めなんて可愛いモノだったし、精神的には何のダメージも無かった。
だけど、日本ではよく虐められた。小学校や中学校なんて、特にだ。物を盗られたり、壊されたり、挙句の果てには髪の毛を引っ張られたり墨で黒く塗られたり…。学校の先生にまで、そうされたんだよ。
でも、あの学園は違った。違和感なく落ち着いていられた。
だけど、あの事件があって俺は変わった。
あの時、あの3人は謝る気は無かったのに、なぜ謝ったのか。それは直ぐに分かったよ。
ねえ、お父ちゃん。
俺はね、あの時、精神的ダメージをこれでもか!と言うほど受けたんだよ。
男3人に犯されたうえに、麻薬を使われたんだよ。
日本は清潔で危険度は低いと言われてるが…、その日本で、俺は危険な目に遭ったんだ。
そのお金は何の金なの?
あの3人から慰謝料をふんだくったの?そのお金なら受け取るよ。
でも、そうでないのなら要らない。』
そのふんだくったお金をユーロに換金して持って来てるのだが、受け取ってくれるだろうか。
部屋から出て、オーナーの事務室へ行く。
「勉」
「あ、おはよう」
「おはよう。勉、これを渡したいんだ」
「それは何?」
「3人分のだ」
「3人って何?」
「日本円で2800万円を、ユーロに換金したんだ。受け取って欲しい」
「え、何のお金?」
「お前の、その…、お前が入院していた時に、親から慰謝料を貰ってたんだ」
勉は叫んでいた。
「入院…?って、え、あの時の?」
2800万円分のユーロ……。
小切手になっていたので安心したが、これがユーロで幾らでしょう?と聞かれたら直ぐには答えられないだろう。理数系は、からっきしな頭の持ち主の俺は健在だ。
「お父ちゃん…」
「渡したかったんだ」
「ありがと…」
父子の溝は浅くなったのかどうかは分からない。
だけど、いつかは話したい。
自分の生い立ちを。
そう、強く思った勉の父だった。
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そう、今回のお話は、この御方。
勉、ジョシュアと呼ばれてる父親のお話なんです。
渋い年齢です(きっぱりw
60歳を超えてるんですもの
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