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青春ド真中 (2)

松井孝之は、夜遅い時間に連絡を受けた。
 『夜分遅くに申し訳ありません。私は高瀬義昭と申します。桑田コーポレーションのボスの秘書をしております。お願いがあり、ご連絡差し上げました。』
 「ああ、いつも桑田君が言っていた、敏腕秘書の人だね」
 『え…?』
 「で、どの様なご用件ですか?」
 『実は…。ボスの子供が拉致られて、探すのを手伝って頂けないでしょうか?』
 「え、子供って…、水泳の申し子が拉致?」

水泳の申し子。
その言葉に、高瀬は微笑んでしまった。
自分が敏腕秘書だという言葉を聞く事よりも、政行が水泳の申し子だと聞く方が嬉しい。

その時、電話の相手は自宅に、と言ってくれたので、高瀬は赴いた。


リビングに通された高瀬は、手土産を渡し本題に入った。
それ程、急を要するものだからだ。
ボスの子供である政行と話をして、マンションのエントランスに入るまでを見守っていた。
その数分程の出来事を語った。


マンションのエントランスから出ると、路肩にはアイドリング中の車が数台並んでる。
誰かを待ってるのだろうか。

ボスの子供の政行は、その数台の車がアイドリングのまま動く気配を見せないので、まっすぐ自分の宿泊先のマンションに向かって歩き出した。
2,3歩ほど歩を進めると、1台の車が動き出す。
思わず立ち止まり、やり過ごそうとして後ろに一歩下がる。その後ろから政行が羽交い絞めにされるのを見て高瀬は飛び出した。
喧嘩慣れしてない政行は足をバタつかせバタフライや平泳ぎのキックで相手にキックする。
だが、相手は手慣れてるみたいで、アイドリング中の車に政行を押し入れ、3台の車は猛スピードを出し、その場を去った。
その間、1分弱。
2人の男をやっつけた高瀬は、政行を押し込んでた車に手を掛けると、いきなりのスピードを出され走り去ってしまった。
目の前で。
冗談じゃないっ。

届かないだろうが、それでも叫ばずにはおられなかった。
彼の名前を、大声で呼んでいたのです。
 「政行っ――!」

桑田の長男だと知っての拉致か?
先程の2人を吐かせて警察にも連絡しよう。ああ、新田の御曹司が居るから、彼にも協力してもらおう。日本人だからと言って甘く見るなよ。


そして、新田の御曹司から、連絡先を知ってると言われ教えて貰い、ご連絡を差し上げました。



それを聞いた松井孝之は、隣で聞いていた息子に先を取られ溜息を吐いた。
そう、息子の弘毅は、こう言い切ったのだ。
 「俺が手伝います。父は忙しい身ですが、俺なら時間はあり、動けますから。
あ、大丈夫です。こう見えても、こっちで暮らしてた時があって、色々と知り合いは居ますので」
でも、高瀬は心配そうな表情で応じてくる。
 「でも、何かがあると」

なので、松井孝之は桑田の秘書に応じた。
 「大丈夫ですよ。桑田君のお子さんは、私にとっても大事な人だ。
お手伝いさせて下さい。
それに、この息子の言葉はスルーして下さい」
 「お父ちゃん、何を言って」
 「お前こそ、こんな危ない事に首を突っ込んでどうするっ」
 「だって、同じ日本人が危ない目に遭ってるのに」
 「良いか、弘毅。お前は弟の面倒を見るんだ。それに、この話はお前の出る幕じゃないっ」
 「だって」
 「だってじゃないっ!
第一、首を突っ込んで危ない目に遭って日本に帰れなくなったらどうするんだ?恋人が居るんだろ?その恋人と会えなくなるんだぞ」

ウッ…と、父親の言葉に詰まってしまった弘毅は何やら呟いてる。
高瀬は、そんな弘毅に声を掛けた。
 「弘毅君の、その言葉には感謝してます。その気持ちだけ頂きます。ありがとうございます」

弘毅は高瀬の言葉を聞くと、益々深く考えだし唸っている。
高瀬には、弘毅のその表情が、政行とダブって見えた。


そして、取り敢えず情報集めをする為、そちらに手を回す。
情報集め、と聞いて弘毅は知り合いに連絡を取ったみたいだ。
先に連絡が着たのは松井父ではなく、息子の弘毅の方だ。
その弘毅経由の知り合いから、連絡があったのだ。
カナダにあるケベックシティーだと。

 「俺の情報網を甘く見てもらうと困るな。」
 「一体、どんな奴に…」
弘毅は、ある情報センターの名前を言った。
 「なっ…!お前、そこに連絡取ったのか?」
 「そうだよ。お父ちゃんも知ってるでしょ?デイヴィを」
 「デイヴィ?デイヴィって……」
暫らくの間、考えていたお父ちゃんは思い付かないみたいだ。
なので、弘毅はヒントを言うと、お父ちゃんは声を荒げてきた。
 「え…、隣に住んでいた、あのスイマーのデイブ・クラークかっ」
 「そうだよ、そのデイヴィだよ。今じゃ、スイマーの方でデイブ・クラークとして名が売れてるみたいだけどね。でも情報センターのボスだよ」
お父ちゃんは目を掌で隠して呻っている。
嘘だろ…。その情報センターはアメリカ国内でも唯一の情報が正確で信頼のおける所だと言われている。そのボスにデイブが…。



父である松井孝之は、息子の情報網に溜息を吐き、帯同させることを許可した。
ドヤ!
というドヤ顔を見せて、弘毅はカナダ行きを実力で取ったのだった。


高瀬は弘毅君がデイブと顔見知りだという事を知り、ただ驚いていた。
しかも、デイブが情報センターのボスをしてるって?
高瀬の脳内は、デイブの情報を即座に上書きした。






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さぞかし、ドヤ顔が似合わなかったでしょうねww
ケベックシティ―。
そう、次話は舞台がケベックシティー弘毅編になります。
本編は、こちら→俺の気持ちはブレない
本編の政行編は、こちら→政行、アメリカへ


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