俺の気持ちはブレない 第二部(7)

※親子喧嘩※



約束の時間になるので、耕平は待ち合わせであるクリニックの喫茶へ行く。
近くのテーブルでは、息子の政行は新田の息子とランチを食べている。
政行は美味しそうに頬張って握り寿司や唐揚げを食べている。


ボスとユタカの言葉が蘇る。二人とも言葉は違うが、言ってる事は同じだ。
声が掛かる。
 「お待たせいたしました」

顔を上げると、リハビリの先生だ。
どうやら午前中は政行のリハビリをしていたらしく、どんな様子だったのかを教えてくれる。
話が終わるのを待ち、耕平は用件を口にする。
 「いつもは秘書にデータ等を調べて貰ってるんです。でも、貴方のデータにアクセス出来ない。
だから、貴方の事を知りたいので、教えてもらいたくて呼んだんです」
 「直球ですね。どの様な事ですか?プライベートに関わる事はお話しできませんが、それでも良いですか?」


耕平が聞き、博人は応えていく。
だが、知りたい深い所には踏み込めない。
頭にきた耕平はテーブルをひっくり返した。

ガターンッ!


博人は避けるが、お互いが飲んでいた珈琲カップとソーサーを落とさずに捕まえる。
それを見た耕平は、益々頭に血が上る。
 「いい加減にしろっ!なんでっ」
 「外に出ましょうか」

博人は珈琲カップとソーサーをカウンターに置き、引っくり返ったテーブルを戻している。
重い筈なのに、軽々と戻している。


博人は外に出ると、きっぱりと言う。
 「貴方の息子さんは既に切り替えが出来ている。
前向きに、左腕を、左側を動かしたい、と。そう言われている。
それを、親である貴方は治せ、と仰る。
筋肉というのは治るものでは無い。一旦、切れるとくっ付きにくい物だ。レントゲンを見せて貰ったのではないのですか?子供が前向きになっているのを留めて、どうされるのですか?」
 「だから言ってるんだっ!ここには医学部出身が何人居ると思ってるんだ?
タカは何処だ?私はタカに替えて貰う。あんたではなく、違う人間を担当にして貰うっ」
 「彼はオペドクターだ。リハビリの人間では無い」


耕平は睨んでくるので、博人は仕方なく聞く。
 「私に何を望んでいる?」

何度も何度も深呼吸をして耕平は気持ちを静めて、口を開く。
 「まずは、出自と人となりを知りたい」

博人は黙っているので、耕平は続ける。
 「それを知ってから、後を決める」
 「どうぞ、ご勝手に」
それは、何も言わない。言いたくないという博人の意思表示だ。


ユタカは飛び出そうかどうか迷ったが、その場に居る事にした。
耕平は、なんとか聞き出そうとする。
 「あんたは、お喋り好きな人間で無い位は分かる。私が知りたいのは、それ以外の事だ」
 「恐らく、貴方は眠れてないのでは?だから酒を呑んで、酒の力を借りて寝ているのではないでしょうか?」

博人は、友明の事を思い乍らゆっくりと話し出した。
 「一番辛いのは本人です。側で見ている方も辛いし苦しい。一緒になって苦しいね、辛いねと言うのは簡単な事だ。本人が前向きに、普通の動作が出来る様に動かしたい。そう言ってるのを、止める権利は私にも、貴方にもない。
リハビリのみならず医療というのは、身体や精神、また気持ちを少しでも不安を軽くして癒していくのが本来の意味だ。
だけど、その本来の医療だけでは、全ての人の苦しみは助けられない。
その人に寄り添って、何年も何十年も掛けて一緒に普通に接していく。
時間だけなんだ…。
何も特別な事をしなくても良いんだ。それには、一緒に居て、泣いたり笑ったり、食事したり、それだけで良いんだ。
貴方は、私の出自や人となりを知りたいと言われるが、それはどういう意味ですか?
何も言わないと、今度は別の人間?
貴方は、金で解決しようという気か?
苦しんでいる人間が何を望んでいるのか、目を背けているように見える。違うかな?」

 「貴様に、親の気持ちが分かるかっ」

ブンッ…、と拳を当てようとするが、当たる瞬間、博人は避ける。


 「次は暴力ですか。貴方の言ってる事は、親という立場を建前にして体面しか考えてない。
それならお聞きしますが、貴方は子供の癖や趣味、恋愛観とかご存知ですか?
一緒に住んでいたのなら、ましてや男同士だ。そういう手の話はあった筈だ」


耕平は黙ってしまった。
一緒に暮らしていても、政行の世話は妻や執事がしていた。
後妻になった女とは会う事を避けていた。
最愛の妻の部屋を取り壊され、政行は自分の家なのに勝手に行き来が出来ない様に、自分の部屋だけでの生活を強いられていた。
ただ、政行には高瀬と執事が居た。
あの二人が居たからこそ、政行は変にぐれる事も無かったんだ。
政行の癖や趣味に恋愛観ね、そんなの私が知るわけないだろう。



声が聞こえる。
 「お父ちゃん、さっき何やってたの?」
 「話をしてただけだ」
 「テーブルをひっくり返す様な話?」
 「お前には関係無い」

だが、政行は痛い所をツイてきた。
 「担当を替えて貰おうとしてるんじゃないの?俺、言った筈だ。博人先生が良いって」

だが、耕平は叩いていた。

パンッ!

 「な…」
 「お前に何が分かるっ!水泳しかやってきてないのに、違う道だなんて…。
ドクターストップ掛かって泳げなくても、近い将来は再度、泳げる。
夢を与える仕事をしているんだ。それを誇りに思ってるんだろ?
自分の好きな事を仕事にする事を決めた時に言った筈だ。
生半可な気持ちでは出来ない。覚悟を決めてやり通せ、と言った筈だ」

 「お父ちゃ…」
政行の目には、涙が今にも溢れ出そうだ。
 「それは、どういう意味?」

耕平は断言した。
 「今は無理でも、4年後も無理でも、8年後には泳げるようになる。
お前の事を能無し坊ちゃんと言って嘲笑っていた奴等は、テレビでお前を見ると、悪い例えで、その言葉を出さなくなった。『頑張れば出来るんだ。ここの能無し坊ちゃんの様に、自分の手で仕事をゲットできる。もっと成功できる』って、そう言ってるんだ。
いいか、政行。ここでへこたれるな!
泳ぐ事しかしてこなかった奴が、他の仕事なんて出来るわけが無い。
お前の筋肉は、また元に戻る。
でないと、また言われるぞ。『やっぱり能無しは、能無しのままだな』って。
私は、お前が誇らしいんだ。
華やかな生活を送っているように見えれば見えるほど、そいつの根気や努力は計り知れないものだ。それに打ち勝つには、並大抵な努力だけでは無いんだ。
軍資金だ。
その金を、親である私が出すと言ってるんだ。
政行、お前は私の自慢の息子だ」

政行は泣いていた。
(本当に…、本当に、自分の事しか考えてない)

父親の言葉は続いてる。
 「お前は自分の手でメダルを取った。
でも、金は入らないだろ?メダルを取って、4年間ずっと金が入ってくるなら良いが、違うだろ?
せっかく頑張って泳いでも、オリンピックで金を取っても1つのメダルに対して一定額の金額しか入ってこない。お前がまだ小さかった頃は、私の通帳に入ってきてたのだから分かってる。
金が、全てなんだ。金こそがモノを言うんだ」


その言葉を耳にした途端、政行は父を殴っていた。
 「金だけだと?金が全てでは無いっ!俺は金欲しさで泳いでるわけでは無い!
俺は…、俺は、お父ちゃんの様な人間にはならない。なりたくも無い。
オリンピックというイベントは、それまでの自分の頑張りの集大成の結果発表の場だ!
それに、俺は働いてる。
嘉男さんの所で働いて、一定額の賃金を貰ってるんだ!
何でもかんでも調べまくって、そのデータだけ信じて…。
リハビリの先生だって、他の先生に替えようとして…。俺は、この先生が良いのっ。
お父ちゃんのバカッ!!」

そう言い放って、何処かに走り出す。
その政行を追う様に、嘉男も走り出そうとする。が、止められてしまった。
 「どうして」
 「大丈夫だ」
 「でも…」
 「ここはパースだ。土地勘の無い奴が行ってどうする?」
 「それは…、でも」
 「大丈夫だよ」

そう言うと、博人は大声を出した。
 「30分だっ!」
直ぐに返事があった。
 「OK!」

あ、誰かが追いかけて行ってくれてるのか。
良かった…。
ホッと、一安心した嘉男だった。



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耕平と博人とのラリーだったのに、政行が声を掛けた為に・・・
親子喧嘩になってしまったね(-_-;)
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