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甥っ子コンプレックス (4) 

 マドリーヌそっくりの子供。
 本当に憎らしいほど、よく似ている子供。
 今、ここには日本から文武を指導する為、親戚の子が集まっている。
 そう、帝王学を学ばせる為にだ。
 その子たちは5年ないし10年を、ここで暮らす。

 直ぐ上の姉の子や、妹の子…と考えてると思い立った。ああ、そういう事か。残していったこの子供も後継者にするつもりか。冗談じゃない。誰が仲良くするもんか。

 だが、その子はなぜか私に纏わりついてくる。
 最初は分からなかったが、その内にリューゾーが私の部屋に来て注意してきたからだ。
 「ここに居る事は分かっています。ジュニア、ヒロト様を隠さないで下さい」
 「別に隠してるつもりは無い」

 そう、隠してるつもりは無いんだ。
 どちらかと言うと、離れて欲しい。
 マドリーヌそっくりのヒロト。
 その顔で、私を見ないで欲しい。
 本当に腹が立つんだ。


 ヒロトは、ここに来る度に私の方をチラチラと目をやり、目で語ってくる。そして勝手に椅子を動かして椅子に腰かけ靴を脱ぐと、椅子につま先立ちして本棚から数冊を手にする。その本を側にあるテーブルに置く。台座にしていた椅子から下り靴を履き椅子を元通りに戻し、私の方を見て一礼すると、靴を脱いでソファに座り込むと読み始める。話し掛けたり邪魔をしてこないので私も黙って放っているのだ。それに、子供がここまでするだなんて思いもしなかった私にとって、ヒロトの行動は新鮮だった。バレない様に笑っていたものだ。

 だけど、とばっちりを受けるのはごめんだ。
 それにリューゾーは自分の後ろに座ってるのが分からないみたいなので、仕方なくデスクから離れてソファへと向かう。
 ソファから引き剥がして、本を読んでいる姿勢を保持したままのヒロトを押し出してやる。
 普段はドイツ語なのに、リューゾーは日本語で呟いてる。
 「え、そんな所に居たとは…」

 溜息を吐いたリューゾーはヒロトに向かってしゃがみ込み、話し出した。
 「良いですか、博人様。今の貴方は、誰よりも努力をしないといけない。勉強だけでなく身体も動かして鍛えないと元気になりませんよ。さあ行きましょう」
 そう言って立ち上がり動き出そうとしてるリューゾーは動こうとしないヒロトに気が付いたのか、再度言っている。
 「博人様、さあ早く。マルク様の邪魔になりますので」

 だが、ヒロトは動こうとしない。
 本を持ったまま、涙を溜めてリューゾーと私を睨んでいる。
 唇をきつく噛み締め、私の目を睨んでくる。
 おそらく、こう思っているのだろう。
 (どうして追い出すの?僕は大人しく本を読んでいただけなのに、何も邪魔しなかったのに。
ねえ、どうしてなの?)

 その声が聞こえてきそうだ。
 それに、その姉様そっくりの美貌と涙目にやられた。
 マドリーヌ姉様の顔で睨まれると、リューゾーもそうだが私もお手上げだ。
 私もリューゾーの武術から逃げ回っているからヒロトの思いも分かるので、尚更の事だ。

 その時が最初だった。
 「ほら、行くぞ」
 「え…」

 本を持ったままのヒロトを担いでやる。
 「私もリューゾーから逃げてばかりだからな。一緒に元気になろう」
 な、と初めて顔を覗き込んで話し掛けていた。ワダからドイツ語を教えて貰ってるのだから、私の言ってる意味は通じている筈だ。

 その子に向けて自然と言葉を掛け笑みも向けたのは、その時が初めてだった。
 すると、その子は抱き付いてきた。
 私の言った意味が分かったのだろう、ドイツ語で返してきた。
 「うん、お兄ちゃんと一緒だねっ」

 可愛い。
 初めて、そう思った時だった。
 「あ、でも本を片付けないと」
 「そうだな、一緒に片付けようか」
 その子は下りようとしてるが、私は彼を抱きかかえたまま立ち上がる。その子は驚いていたが、私はこう言っていた。
 「一々、椅子を持ってくるより、こっちの方が良いだろ」
 「ダンケシェーン」
 その子を抱いたまま、本の片付けをさせていた。

 「お兄ちゃんでなく、ジュニアとかマルク様と呼ぶものだっ」と喚いてるリューゾーを無視して道場に向かった。
 私に抱かれているヒロトはリューゾーに向かって”あっかんべー”と舌を出し入れして目も大きく開けクルクルと黒目を回している。そんなヒロトに、くすくすっと笑っている自分が居た。


 しかし、程なくして分かった。
 ヒロトは避けてばかりだ。
 あれでは勝負にならない。
 だけど上手に避けるもんだな、私だったら避けきれずに倒れてるだろう。
 そう思ってたらリューゾーの拳が目の前に映った。
 「っ…」
 「くそぉ…、避けない、逃げない、躱さないっ!マルク様も庇わないっ」

 いや、庇うつもりは無いんだが…。
 リューゾーの拳をまともに食らってダメージ100,000,000でノックダウンしていた。 







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