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甥っ子コンプレックス (2) イラついた時は狩猟

 ある日、マドリーヌは話し掛けてきた。
 「私、お腹に赤ちゃんがいるの」

 突然の事で、暫らくの間は何も考えることが出来なかった。
 だって、直ぐ上の姉と末っ子の妹は早くに結婚して子供もいるのだが、マドリーヌにはあれ以来なにも音沙汰が無かったからだ。マドリーヌは微笑みながら声を掛けてくる。
 「マルク、喜んでくれるよね?」
 「え…」
 「何を呆けっとしてるの。あなたの甥っ子か姪っ子が生まれるのよ」
 「誰の…」
 「なあに?」

 そんな幸せそうな微笑を向けないでくれと願いながら聞いていた。
 「誰の子供だよっ」
 「私と、私の愛する男性との2人の愛の結晶よ」

 マドリーヌの幸せそうな優しい微笑は、その目には、もう僕の事を映してなかった。
 「さ、な…」
 「え、なあに?」
 「ゆ、許さない…」
 「マルク?」
 「結婚も、子供も許さないっ」
 「そう…。お父様とお母様は?」
 
 2人は同じ事を言っていた。
 「いきなり言われても…」

 そうだよ。
 いきなり言われても困るんだよ。

 急な事で頭が働いてなかった。
 いつもの様に食事したりお喋りしたりしていたからだ。
 そんな素振りだなんて少しも見せなかった。
 だが、数ヶ月後、いきなりマドリーヌは姿を消した。
 居なくなったのだ。

 お父様に聞くと「分からない」と一言だった。
 まあ、あんたが知ってるとは、これっぽっちも思っても無いよ。
 だけど、お母様は違っていた。
 「安定期に入ったからね。旅行に行ったのよ」
 「旅行って、何処に?」

 溜息吐いて返してくれる。
 「あの旅行好きは、どうしても直らないわよねえ…」

 いや、知ってる筈だ。
 だが、悲しいかな。
 僕は、まだ学生だった為、探しに行く事は出来なかった。

 無性に腹が立ち、お気に入りの側付6人を連れて狩猟に行った。
 一番お気に入りの側付はフィルとジョシュア、次いでマティアス、シャルル、ヘンリー、ニコライ。
 この6人さえ側に居れば良い。

 繁みの向こうに居るのは分かっている。
 逃げられない様に足先を狙い、地面すれすれで撃ってやる。

 ズキューンッ…!

 手応えはあった。
 すぐさま獲物の皮を剥ごうとナイフを手に繁みに分け入った。
 すると、シカや小動物ではなく人間だった。
 しかも女性。

 なんで、こんな所に女性が居るんだ。
 だが、死なせたら大事だ。
 こんな狩猟区域に入ってくるなんて自殺行為にも等しい。
 ナイフをポケットに戻し、その女性を抱き上げ馬に乗せると、屋敷へ連れ帰った。

 うちではお抱え主治医がいるので、診てもらう。
 「マルク様の狩猟の腕は見事と言うしかないですね。でも、全治1年掛かるでしょう」
 「そんなにも掛かるの?」
 「完治だと、それ以上掛かります」
 
 その言葉に溜息を吐いていた。
 「マルク様、この方は」
 「知らない。シカかウサギかなと思って撃ったんだ。まさか、狩猟区域に人が居るだなんて思いもしなかったんだ」
 「マルク様、面倒を見て差し上げて下さい」
 「仕方ないな、全治するまで1年か…」
 「完治するまで、それ以上です」
 「分かったよ。僕のせいだからな」







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