BL風味の小説

BL風味のオリジナル小説です。
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俺の気持ちはブレない 番外編 弐


 「いっやー、本当に盛大な人数だったねえ…」
 「何がだ?」
 「学長の葬式だよ。参列者」
 「ああ、そうだったな」
 「ボスも健在だったし」
 「あの顔には驚いたけどな…」
 「学長の葬式で、また俺達5人が一緒に顔合わせて、この飲みが設定出来たからな」
 「学長様々だな」
 「そうだな」

大学を卒業して33年後。
招集が掛かったのは、学長の訃報の知らせだった。
教育学部に入学して一年後、5人の男が頭脳明晰とルックスの良さで選ばれた。
医学部の10人と経済学部の5人。
それに倣ったのか、人気学部である教育学部も選出したらしい。
お調子者で明るい高橋冬吾(たかはし とうご)。
60歳近くになっても、明るくお調子者は健在だ。
その高橋の言葉に応じてる人物は、海堂響(かいどう ひびき)。


 「悪い、悪い。遅れた」と言いながら入ってきたのは、4年生の時、教育学部ではトップだった人物、田宮壮一郎(たみや そういちろう)だ。
その田宮から数歩ほど遅れて入ったきたのは、小林則夫(こばやし のりお)と福田雄飛(ふくだ ゆうひ)の二人だ。


 「まずは学長お疲れ様でした、と乾杯しようや」
 「ほんとに、高橋は相変わらずの調子者だな」と、田宮が呆れた口調で返す。
 「そこが良いんだよ」
と、ウインクしながら高橋は返してやる。

 「子供は二人だっけ、三人だっけ?」
 「三人だよ。まあ、取り敢えず飲み物渡すぞ」
高橋が、そう言うとタイミング良く声が掛かる。
 「お食事、お持ち致しました。」
その声に、高橋は先に応じる。
 「あ、はい。お願いします」


食事を並べ終え「ごゆっくりどうぞ」と声を掛け退出する。
その豪勢な食事を見て、5人が5人共嬉しそうな顔だ。
 「へぇ、御馳走だな」と、高橋が。
 「久しぶりに会うからかな」と、海堂が。
 「それに四捨五入すると60歳になるからな」と、田宮が。
 「え…、もしかして、これって…、そういう意味も含まれてる?」と聞いたのは高橋だ。
その言葉に応じたのは、小林だった。
 「赤い奴、着たいか?」
 「いや、結構です」


各自、飲み物を手に取る。
卒業時トップだった田宮が声を掛ける。
 「それでは・・・。学長、長い間お疲れ様でした。ご冥福をお祈りします」

 「そして、還暦おめでとー!!乾杯ー!」
4人の声が重なる。
 「還暦、言うなー!」と、小林が。
 「まだ、なってないぞっ」と、海堂が。
 「一浪したけど、まだ56歳だっ」と、高橋が。
 「田宮だけ60歳なんだろっ」と喚いている福田に、田宮は答える。
 「俺は三浪したからな。も少しで59歳だよ」


酒も進み、食も進んできた。
その時に、一人が立ち上がる。
 「なあなあ、近況報告しようぜ。高橋でっす♪
息子一人と娘が二人いて、孫が、この冬に誕生する。爺ちゃん予備軍だよ」

高橋が椅子に座ると、左隣の人物が立ち上がる。
 「海堂だ。息子が一人だが、この春俺達と同じ東響大学に入学した。体育学部の一年生だ」

海堂が座ると、左斜めの人物が立ち上がる。
 「田宮だ。まだフリーだが、息子が一人居る。でも、息子とは離れて暮らしているので、一人を楽しんでる」

田宮が座ると、左隣の人物が立ち上がる。
 「福田だ。隣に居る小林と一緒に事業を興している」

福田が座ると、左隣の人物が立ち上がる。
 「小林だ。福田とは同棲中だ」

小林の言葉に三人は驚いてるが、福田は顔を真っ赤にしている。
誰の声なのかは分からないが、聞こえてくる。
 「もしかして…、その、ホモ・・・。ゲイ、なのか?」

その問いに小林が応じた。
 「福田は婿養子で、俺の姉貴と結婚したんだが…、子宝に恵まれず、その内、倒産したんだ」

その場が静かになり、無言になってしまった。


その無言を壊す様な明るい声が聞こえてくる。高橋だ。
 「お前等、二人とも仲良かったからな。今は福田に戻ったという事は、フリーなんだろ?
で、事業を興したって、どんな職種なの?」
高橋の言葉に小林は答える。
 「出版社だよ」
 「へー、このご時世に出版社って、大変じゃない?」
 「電子と紙の両方なんだ」
 「やっていけてるのか?」
福田が、その問いに応じた。
 「実は…。この7月に興したばかりなんだ」

海堂が身を乗り出してくる。
 「スポンサーとかは?」
 「今のところは大学と、小林が定年前退職した所だ」
 「大学って何処?」
 「俺達のだよ」
 「へ?東響大学?」
 「そう。教育学部だよ」
田宮が乗っかってくる。
 「まあ、卒業した所だからな」

 「そうそう。で、これ持って来たんだ」
そう言って、福田は三人に渡した。

 「何、何?」
 「俺達に?」
 「還暦祝いか?」
田宮の、その言葉に高橋と海堂は睨んでやる。
くすくすっと笑いながら、福田は言ってやる。
 「あ、分かった?」
苦笑しながら小林は、「福田、お前ね・・・」と呆れ乍ら、三人に言ってやる。
 「出来たばかりなんだ」
そう言うと、三人は袋から取り出した。


それは、1冊の本だった。
蒼い表紙に『4人の幼き戦士』とタイトルが書かれてある。

小林と福田は説明せずに、反応を見ている。
高橋が先に声を掛けてきた。
 「あれ、この訳者の名前、どこかで・・・。と、この手記って…」
 「その手記は、ドイツ人だよ」
海堂が声を掛けてくる。
 「あさみって、誰?」
 「このブログのブロガーだよ」
 「ほー…、そいつが書いたのね」

福田が言ってやる。
 「それは、出血特大サービスとしてプレゼントしてやるよ」
小林も言ってやる。
 「還暦祝いとしてな。んで、帰ってから読めよ」

田宮が言う。
 「この宣伝の為に来たのか」
小林が先に口を開いた。
 「違う。この宣伝の為にも、だ。お分かり?」

わはははっ…。

 「小林は、口が達者だねー」

5人は、飲み食いして盛り上がり、一夜を過ごしたのであった。
翌日、5人共が二日酔いになったのは言うまでもない。
















 ~Fin.~





気になってると思いますので、簡単に自己紹介させます。
高橋冬吾
 息子は、高橋一比古。政行の担当リハビリ医です。

海堂響 
 息子は、海堂伸一。この春、3PのSSでデビューした人物です。

田宮壮一郎
 子供は、宗一。政行の義弟として桑田家に居た人物の実の父親です。

福田雄飛
 バツイチだが、子無し。

小林則夫
 大学時代から福田一筋の、ホモな人。





 ⇓次作です⇓
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俺の気持ちはブレない 番外編 壱

 「政行。クロールのキャッチが弱いぞ。他は良いんだけどな…」
 「よし兄ちゃん、手本見せて」
 「仕方ないな…。」

ゴーグルを掛けると、高瀬はプールの浮きに足を引っかけ、スクロールの練習の姿勢を取る。
 「いいか、よく見ておけよ」
 「うん」


足首に痛みが走る。
だけど、この痛みを誰かに話そうと言う気は無い。
政行と呼ばれた桑田政行は、桑田コーポレーションのCEOの一人息子だ。

ここは、神奈川にあるプール付きの別荘。
住み込みで大学を卒業して、そのまま就職先も決まっている。
よし兄ちゃんと呼ばれた高瀬義昭は、この幼い政行の世話もしている。

数分ほど手本としてクロールのストロークをして見せると、政行は自分でやりだした。
ああ、さっきよりは良い感じだ。
そう見て取ると、高瀬は政行の足を浮きに掛けさす。
 「ん?」
 「ん、ではないよ。この方が練習しやすいだろ」
 「そうだね」
にこにことしている政行の顔を見てると、思い出したくない過去は自然と消えていく。


奥方の声が聞こえてくる。
 「義昭君、いつもご苦労様。政行も。あと20分で、晩御飯ですよー」

その声に、政行は直ぐに反応する。
 「あ、晩御飯だって。よし兄ちゃん、食べよう」
 「仕方ないな…。それじゃ、ダウンしてから上がるぞ」
 「はーい!」

二人して、10分間のダウンをする。
最後に水上にプカプカと浮かぶのだが、いつも政行は水上をあっちこっちに移動してしまう。
その様子を見ながら、高瀬は微笑みが出てしまう。
 「ほら、ダウン終了だ」
 「はーい」
 「ったく、お前は、どこまで行ってるんだ…」

てへへっ…と、舌を出し笑う政行は可愛い。
その後、二人して仲良く風呂場に直行する。
プールから風呂場に入ると、政行の声が聞こえる。
 「よし兄ちゃんの、お腹ってカッコイイね~」
 「当たり前だ。何歳だと思ってるんだ?」
当然ながら、風呂場で裸になった政行と義昭の会話だ。


そんな二人を奥方は微笑ましく見ている。
風呂場に向かったのを見届けて、今度はもう一人の人間に声を掛ける為ジムに向かう。
ジムからはプールが丸見えなので、プールでの風景や風呂場に向かう二人を見ていた。そこに居る人物は足音を聞きつけ、身体を動かしだす。
ガラガラッ…と、ドアが開く音が聞こえてくる。
 「利根君、ご飯出来るからね」
 「ありがとうございます」

利根君こと、利根川五右衛門はジムから風呂場に直行する。
裸になった利根川は、先に入ってる二人に声を掛ける。
 「俺も入るぞ」

その言葉に、先に入ってた二人は応える。
 「ほいほい」と、義昭が。
 「骨皮だー」と、政行が。

 「煩い。いい加減にしろよ、この坊ちゃんが」、と言いながら政行の頬を優しく抓ってやる。
あははっと笑いながら、痛くも無いのに政行は言ってしまう。
 「痛いよー、骨ちゃん」
 「誰が『骨ちゃん』だ。誰がっ!」

それを見てる高瀬も、つい言ってしまう。
 「骨皮は、本当に優しいよな」
 「煩いっ!お前まで、それ言うなっ」

ポカッと頭を小突かれた高瀬は、利根川に向かって笑ってる。
あはははっ…。

 「よし兄ちゃんのお腹もそうだけど、骨ちゃんのもカッコイイよねー」
 「そうか?」と先に応じたのは骨ちゃんだ。
 「どれどれ」と言いながら、よし兄ちゃんこと高瀬は骨皮もとい利根川の腹をなぞる。
 「お前ねっ」と言いながら、骨皮も高瀬の腹だけでなく胸もなぞってやる。
ビクッと身体が揺れ、高瀬は焦っている。
 「お前、そこは腹で無く胸だっ!」と言いながら、湯を利根川の頭の上から掛けてやる。

また、三人の笑い声がする。
あーははははっ…。

高瀬は思っていた。
利根川は、腹が割れており、さすがジムで鍛えた身体だよな。

利根川も思っていた。
こういう時は、素直に感じるんだな。良い身体をしてる。さすがスイマーだよな。



あの頃は楽しかった。
それが、東京に引っ越して数年後には、あそこは地震によって土地に飲み込まれてしまった。
良い遊び場であり、楽しい思い出しか残って無い。


それが、政行は高校に入ると、よし兄ではなく『高瀬』と呼び捨てにしてくれるし。
まあ、それでも慕ってくれるから良いか。


そんな高瀬を、利根川はジッと見ている。
我慢できず、つい呟いてしまう。
 「俺の方を見てくれ…。義昭、お前は、いつまであいつを見てるんだ………」



その後、利根川と高瀬は、自分達のボスである人物に見合いをセッティングされたが、その見合いに行ったのは高瀬だけだった。
高瀬は、見合いには行ったものの、ボスへの返事はこれだった。
 「まだ結婚する気はないです。ボスの顔を立てた、それだけです。
それに、政行坊ちゃんは母を亡くしたばかりなので、誰が世話をするのですか?
執事だけでは無理です!」

見合いの前日。
利根川は、ボスにはっきりと言っていた。
 「自分には好きな人がいます。結婚なんてしたくないし、この会社の駒にはなりたくない。
同じ、なるなら……。なるなら、駒を動かす人間になりたい!」


その言葉で、ボスは高瀬を自分の秘書に。
そして、利根川は30代という若さで、エリートコースの道へと、抜擢されたのだった。


ボスは、その二人には自分の家から出て貰い、マンションから通う事にさせたのだった。
高瀬は、政行の世話をしながら、仕事もして…。
ついには、第一秘書という位置を手にした。
少し遅れて、利根川は40歳過ぎて、専務という位置を手にしたのだった。

それでも、二人の心は昔と変わって無かった。
高瀬は、政行に。
利根川は、高瀬に。


肝心の政行は、よし兄と慕っていた高瀬ではなく、全く別人の嘉男に。
各々の心は向かっていた。


その事に、いち早く気付いたのは、骨ちゃん、骨皮五右衛門と呼ばれてた利根川だ。
これは…、高瀬を自分に振り向かせるチャンスがきた。
能無し坊ちゃんは、昔とは違う。
まあ、ある意味、変わってないけどな…。

あとは高瀬を、どの様にして振り向かせるかだ。
















 ~Fin.~




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俺の気持ちはブレない ~あとがき~

あとがき


いつも読みに来て頂きありがとうございます。
この正月にデビューした嘉男と政行です。

一つしか年齢が離れてない、という同世代のカップルですが・・・。

アメリカ仕込みのゲイな人の嘉男。
水泳しか興味がなく、大学を卒業して自分の世界が広がっていく政行。


第一部では、ユウゴコーチとニューヨーク支店のマモルが登場しましたね。

第二部では、オーストラリアで自分の担当である博人との出会いに、父親との初の口喧嘩。

やはり、水泳バカは水泳で〆ないと、ね。


政行に水泳を教えた高瀬。
この人が可哀相だ、とお言葉を頂きましたが……、どう料理しましょう?


今のところ、続編(?)みたいなネタはありますので、高瀬も登場させますかね。
む腐腐腐♪



その時は、是非読みに来てくださいね~。


この後、番外編があります。
そちらも、お楽しみに~






   あさみより  2016.7.1




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俺の気持ちはブレない 第二部(28)~最終話~

博人と友明は黙って聞いていた。
政行があちらに行くと、博人さんが言ってくる。
 「本当に、プールが好きなんだな」
 「まあ、本人がそう言ってるのだから良いよ」
 「作ったかいがあったな。しかし、案外早くに吹っ切れたもんだな」
 「彼は軽い方だから。あれが私と同じ脳だったら、どうなるやら」
 「まあ、な…」


違う声が割って入ってくる。
 「ボス、博人先生。お帰りなさい」
 
 「ただいま」と、博人さんが。
 「話を聞いたよ」と、友明は言う。

 「何のですか?」
だが、友明はとんでもない事を言う。
 「君ならセンター長を任せられるな」
 「え…?まさか話しって…、彼のプール戻り?」

さすが東響大学医学部の先輩と後輩。
しかも、ボスである友明に懐いてパースでの5年間を卒業しても、そのままパースに3年間居付いていた人間だ。
すぐに、何の事か分かった高橋一比古(たかはし かずひこ)は、泣きついていた。

 「ちょ、ちょっと待って下さいよ、センター長にはボスしか居ませんよぉ」



そう、ここ東京のリハビリセンターの職員は、全員が全員、パースのクリニックへ大学5年生の時の実地期間を6ヶ月間丸ごと滞在して、現場実地していたのだ、
実地を終え大学を卒業後、パースで5年間働く。
だが、この高橋一比古はクリニック・ボスに懐いて、その後、3年間をパースで働いていた。
そして、大学に戻り、リハビリの大切さを後輩に教えている。それと同時に、リハビリセンターが出来たので、彼は自ら立候補したのだ。
自分の就職先に、と。

そして、いずれは戻ってくるだろう。
パースのクリニック・ボスと博人先生の完全帰国を心待ちにして。



5年前、この二人が最上階にプール、サロン、道場を作りに帰国していたのを知ってるのは、この高橋一比古を含む職員と、龍三先生だけだ。


ちなみに、高橋一比古の父親は、ボスである福山友明と同期で教育学部を卒業しており、医学部の方にちょくちょくと顔を出して仲良くしていた二人の内の一人だ。
父の名前は、高橋冬吾(たかはし とうご)。
もう一人は、海堂響(かいどう ひびき)。
同じ教育学部卒業生であり、頭脳明晰でありルックスも良い5人の内の一人である。





水泳選手が恋をすると、脇目もふらずに突っ走っていく。それは、ゴーグルを掛けた先には、一直線先しか見えないからだ。
それもそうだろう、脇目をふってると追い抜かれてしまう。

アスリートにとって、誰かを好きになるという思いは原動力になるが、そこまでのものでしかないのだ。でも、政行はドクターストップが掛かった事によって、一旦、止まってしまった。
だから、自分の事を振り返る時間が出来たのだ。

政行の気持ちはブレない。
だけど、短期間とはいえ別の人間を好きになってブレた時期もあった。
純粋な気持ちの塊である政行は、これからも嘉男以外の人間を好きになる時が来るだろう。
そして、その度に嘉男と言い合ったり、泣きながら生きていくだろう。
友明とは違う。
政行の場合は、恋人である嘉男は一つしか年齢は違わないという同世代だ。






週1だが、水曜日は政行とデート。
デート場所はリハビリセンターにあるプールだけど、作り物ではなく自然な笑顔が見れる。
恋人気分を満喫している嘉男に、アサミはからかうばかりだ。
なにしろ腐の楽しさがマンネリしているので、アサミはつまらないのだ。
所長はリア充だし、プールスタッフは変わらないメンバー。
バイト先の新聞配達は早朝なので、腐だなんて全く縁のない仕事だ。
デッサン教室も、殆どが女性だし。
マサユキコーチが居た頃は色々とあったが、腐要素は沢山あった。
どこかに腐は落ちてないかな。

腐男子のアサミは、腐を探しに行く為3ヶ月程休みを取ろうかな、と思う様になった。
 
 「腐探検」
うん、良いかも。
と、独り言ちるアサミだった。













 ‐完 ‐ 



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俺の気持ちはブレない 第二部(27)

見学の日、担当の先生は政行と嘉男を最上階に連れて行ってくれる。
エレベータから降りる。

 「すごっ…」
嘉男さんの声が漏れ聞こえてくる。


プールに向かう廊下を下っていくと、リハビリしている人が見える。
プールにはビュールームが付いており、そこに入る。
そこからはプールだけでなく、富士山の見える方角だという事が分かる。

たとえ見学だとしても、ソワソワしてくる。
その人達が笑ってるのが分かる。
楽しいんだな…。
担当の先生が声を掛けてくる。
 「よろしかったらどうぞ」
 「え?」
 「海パン一式持って来られてるのでしょ?ロッカーはこちらです」

俺は嘉男さんに言っていた。
 「もしかして、その荷物…」
 「そっちこそ」


ロッカーで着替えてると、担当の先生も着替えているが、その先生の背中から脇に掛けて大きな傷跡が見える。
思わず口に出ていた。
 「先生、その傷…」
 「ああ、これはオーストラリアで研修してた時に怪我したものです」
まあ、そのせいで激しいスポーツは出来なくなりましたけどね…。
その呟きが聞こえたのかどうかは分からない。


先生に連れて行かれて、シャワーを浴びてプールに入る。
改めて思った。
ここのプールは温かい。
いや、温水プールとか屋内が温かいとか、そういう類の事では無い。
光だ。
床上1.50mから縦に2m、横幅3mほどの範囲で、円柱を挟んで等間隔に6枚のガラスが張られている。
そして、床上1.50mまでと3.50mから天井までの壁はクリーム色で統一されて、お風呂とサウナは窓際に位置するプールの入り小口に設置されていて、広い。
そのサウナの幅分の円柱が合計12本。
その柱には飾り模様がされてる。
贅沢と言う言葉を通り越して、何も言えなかった。

まるで、神殿かと思えるほどだ。
そのガラスから射しこまれてくる温かい光を身に受け、政行は思っていた。
 (どこの坊ちゃんが考え建てたんだ?こんな神殿みたいな建物だけでも引いてたのに…。
最上階のプールにまで、これだなんて…)


プールの水に足先を浸けると温かい。
ただいま、という気持ちになってくる。
嘉男さんは、サブンッと遠慮なく足から水中へ飛び込む。
 「飛び込み禁止ですよ」
そんな政行の言葉をスルーして嘉男は言ってくる。
 「政行。今のお前の顔、嬉しそうだよ」
 「本当?」
 「ああ。本当にプールが好きだ、と言ってるようだ」

担当の先生は、こちらにと俺を誘導してくれる。


ここからね、と言ってくれる。
政行は絶句なのか唖然としてしまっていた。
 「先生、これって…」
 「楽しいですよ。では、私はお先に」
そう言って、先生は先に階段を上り行ってしまった。

プールサイドからは、座って入るか足から飛び込んで入るかになる。
でも、飛び込みは禁止だから、座って入る事になるからこっちに連れてきたんだな。
肩に負担を掛けない為に、先生は気を使ってくれたんだな。
どうしても手を使って腕の力を使うからだ。
でも、これは楽だな。
そう思うと、政行は先生の後を追いかける様に階段を上っていく。
 「いざ、出発ー」


中々来なくてイライラ気味な嘉男さんの顔が見える。
思わず声を上げていた。
 「ぃやっほー!」


ザブンッ…。

と、音を立て、俺は水中に顔まで潜った。
プハッ…と顔を上げ、横に振って水滴を飛ばす。
 「へー、滑り台かあ。楽しそうだな」
 「うん、楽しかったよ」

嘉男さんは、俺も、と言って滑り台に向かっていく。
それを見てると、滑り台までは距離があり、高さがある事に気付く。
カーブも3つある。
そして、一度だけでは足らず三度も滑って楽しそうな嘉男さんを見てると、俺も楽しくなってきた。

先生の声が聞こえてくる。
 「はい。それでは見学から体験になりますよ」
思わず返事をしていた。
 「はい!」


泳ぐ事は出来ないけれど、水と友達になり、自然との調和を感じる。
そういうのは、泳ぐことよりも初歩的な事だ。
政行は、プールでのリハビリをする事に決めた。

嘉男さんは滑り台が気に入ったらしく、付き添いで来る。
まあ、リハビリだから付き添いは必須なので、はしゃぎ過ぎなければ良いらしい。
その代わり、付き添い料1回につき1,000円だけどね。



 「だから、悩み苦しんだ期間って、半年も経ってないのです。
まあ、泳げないのはあれなんですけどね…。
やっぱり、俺ってプールバカなんですよね。
誰が建てたのか分からないけど、ありがとうと言いたいです」


チリリンッ♪

客が入ってきたのだろう、声が掛かる。
 「こんにちはー」
 「あ、いらっしゃいませー」





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